ララ・ゴゴベリゼ監督 (c)3003 film production,2019
ララ・ゴゴベリゼ監督 (c)3003 film production,2019

 金継ぎのように過去が修復できたら──91歳のとき完成させた「金の糸」のタイトルは、繊細な日本の修復技術から取っている。ソ連から独立したジョージア(旧名グルジア)の歴史を背負いながら、ラナ・ゴゴベリゼ監督(93)は27年ぶりの長編映画にどんなメッセージを込めたのか。

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 過去は重荷か、それとも財産か──。ジョージアを代表するラナ・ゴゴベリゼ監督・脚本の長編映画「金の糸」は、人が過去とどう和解するかの物語。ジョージアの激動の歴史を重ね合わせて過去との和解を紡ぐ。過去とうまく対峙(たいじ)できない人の心をほぐすような作品だ。

 舞台はトビリシの旧市街。作家のエレネ(ナナ・ジョルジャゼ)は、パソコンに向かい言葉を打ち付けている。今日は彼女の79歳の誕生日。だが、一緒に暮らす家族の誰もがそれを覚えていない。それどころか、娘は義母でソビエト連邦の時代に政府の高官だったミランダ(グランダ・ガブニア)をこの家に引っ越しさせると言う。アルツハイマーの症状が出始めたミランダに一人暮らしをさせておけないというのだ。

 スターリン時代に母親を収容所へ送られ、自身の活動も制限されてきたエレネは同居を断固拒否する。だが、今や杖が必携となり、ろくに外へ出ることもできない身。受け入れるしかない。エレネは40年前の誕生日に着たドレスを身にまとって一人気分を上げ、自分と同じ名前のひ孫に今日が誕生日であることを伝えるのがせいぜいだ。

 ところが、そこへ誕生日を祝う一本の電話がかかってくる。電話の主は60年前の恋人アルチル(ズラ・キプシゼ)。彼も今や車椅子の身。会うこともままならない2人だが、この電話をきっかけに再び交流が始まる。2人にミランダを加えた3人の過去が次第に明らかにされ、ソビエト連邦下の記憶が語られていく……。

 ゴゴベリゼ監督は本作を、「考え方が全然違う相手と対立をどのように乗り越えていくかが大きなテーマでした」と語る。

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