岸田劉生の「麗子像」を模して大平正芳首相を描いた週刊朝日1979年5月4日号の「ブラック・アングル」
岸田劉生の「麗子像」を模して大平正芳首相を描いた週刊朝日1979年5月4日号の「ブラック・アングル」

◆体調が戻ったらまた動き出す人

 現在山藤さんの仕事をサポートしている娘の梅田加奈子さんはいう。

「父はずっと自信があったんですね。必ずひらめきが降りてきて、ニュースを何かと結びつけてスピード感をもって仕上げていく。その力量にも自信があった。仕事を始めるのはいつも締め切り前日の夜中でした。ただ、『ここまで来ると、やめ時って難しいね』という話はよくしていました」

 80歳前後から山藤さんは右ひざが痛み、歩きづらくなった。手術や長期入院にも耐えつつ描いた「ブラック」だが、さすがに昔日の輝きは薄れてきた。本人がいちばんわかっていたと思う。著書『山藤章二の四行大学』(2019年、朝日新書)で、交友の深かった立川談志を語っている。

<最晩年、談志は言った。「独演会が疲れちゃった。いつもの客がいつもの席で待ってるんだよ。で、俺が例によって毒舌や風刺の効いたことを言うのを待ってるんだ。俺だって無限に毒があるわけじゃない」>

 盟友を語り、ご自身を語っていたかもしれない。

 加奈子さんはいう。

「今年に入って、ときどき最終回を暗示させる原稿を描きました。4回くらいあったかな。自分が考えるレベルと実際の作品とのギャップを毎回、思っていたんでしょうね。最近は絞り出すような感じで、さすがに本人も連載は限界と考えた。やめることを決め、がっかりもせず、案外さっぱりとしていました」

 ただ、その後、山藤さんは自宅で転倒し、骨折して現在入院中である。

「手術は成功し、今後はリハビリになります。元気にしてますよ。『ブラック終了』の各紙の記事を見て、『そんなにオオゴトかなあ』って」

 入院中も、時々文章や絵を描いている。

「連載はやめるけど、断筆、引退ではありません。コロナの影響でしぼんでいるわけでもない。体調が戻ったら、また動き出す人だと思います」

 皆さん、新しい山藤さんを待ちましょうね。(本誌・村井重俊)

週刊朝日  2021年12月3日号