※写真はイメージです (GettyImages)
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 規制緩和により急ピッチで保育園が作られた反動から、保育士不足が深刻になっている。中には、人件費を抑えることで利益を得るために意図的に人員体制をギリギリにする悪質なケースもあり、園児たちの安全が脅かされている。保育士が足りない現場で今、何が起こっているのか。

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 今年7月、福岡県中間市の認可保育園で、送迎バスに取り残された当時5歳の園児が熱中症で亡くなった。園長が一人で運転して送迎を行うことが常態化し、園児の出欠確認が十分に行われていなかったことが判明し、大きな問題となった。

熱中症による園児の死亡事故が起きた福岡県中間市の保育園 (c)朝日新聞社
熱中症による園児の死亡事故が起きた福岡県中間市の保育園 (c)朝日新聞社

 だが、この事故は「氷山の一角」かもしれない。子どもの安全に直結する「保育士不足」という問題は多くの園が抱えており、いつまた、悲惨な事故が起きてもおかしくない。中には、人件費を抑えて利益を出すために、保育士の配置数を削るケースまである。

「1人でも良いから、保育士を多く配置してほしい」

 都内の認可保育園Aのベテラン園長が嘆く。認可保育園には国による保育士の最低配置基準があるが、A保育園を運営する株式会社は、人件費を抑えるため「一人たりとも基準より多く雇わない」という方針だ。

 A保育園は正社員の保育士だけでは国の配置基準を満たせておらず、不足分には派遣の保育士が充てられている。派遣の保育士の多くは子育て介護で時間の制約があり、朝晩のシフトに入れない。正社員の保育士が開園時間の朝7時半から出勤し、シフトの時間が終わっても閉園時間の夜7時半まで連日残業して何とかカバーしている状態だ。

 同社は求人広告で「働きやすい環境」をうたっているものの、実態はほど遠い。園長が早番や遅番のための人員確保を本社に要望すると、「正社員の保育士が早番から出て、間に長く休憩を入れて遅番もやればいい」と、一蹴された。

送迎バスが止まっていた駐車場に設けられた献花台 (c)朝日新聞社
送迎バスが止まっていた駐車場に設けられた献花台 (c)朝日新聞社

 冒頭の事故が起きた朝の時間帯は、危険と隣り合わせだ。園児が次々と登園する朝9時半までの間、保育士は子どもの健康状態などを保護者から聞き取らなければならず、子どもをみている余裕がない。このため週3日は園長が朝の保育に入ってフォローする。本来、園長には施設長としての職務専念義務があり、保育に入ることが常態化するのは違反だが、「いつ事故が起きるかわからない」という現状を思うと、やむを得ないという。

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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