小川糸 (撮影/写真部・高野楓菜)
小川糸 (撮影/写真部・高野楓菜)
小川糸さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・高野楓菜)
小川糸さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・高野楓菜)

 映画化もされ、海外でも人気の『食堂かたつむり』でデビューした小川糸さん。デビュー作から「興味シンシンになりました」という作家・林真理子さんが、ドラマが放送中の『ライオンのおやつ』やデビューまでの道のりを伺いました。

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林:小川さんはベルリンにずっと住んでいらして、今はコロナの関係で日本にお帰りなんですか。

小川:このタイミングでないと戻れないと思って、コロナに背中を押されるような感じで、ベルリンのアパートは引き払ってしまいました。犬を飼っているので、連れてくるには検疫とかいろんな手続きが必要で、ギリギリ滑り込みで去年の3月の終わりに帰ってきたんです。

林:ベルリンって小川さんのイメージとぴったりですよね。小川さんってパリとかニューヨークじゃないし、バルセロナでもないし。

小川:ベルリンみたいにちょっともの足りないぐらいなところが、私にはちょうどいいですね。華やかなところは自分が舞い上がっちゃって、平常心でいられないんです。パリなんか何もかも素敵で、食べものもおいしすぎるし、ハレの場所だなと思っちゃうんです。ベルリンは全体的に何となく暗くて地味で、落ち着きます。

林:小川さんの『ライオンのおやつ』(ポプラ社)が連続ドラマ化されて、今、NHKのBSプレミアムで放映中ですけど、私、本を読んでいたら、途中で涙が出てきそうになっちゃいましたよ。主人公の雫ちゃんはいろんな人と友情を結ぶけど、舞台がホスピスだから、次々と亡くなってしまうじゃないですか。

小川:そうですね。

林:すごく悲しかった。なんでホスピスを舞台にしたものを書こうと考えたんですか。この若さで。

小川:大きかったのは、ずっと疎遠になっていた母が亡くなったことなんです。あるとき、電話で母は「死ぬのが怖い」と言ったんです。私自身は自分が死ぬことに対する恐怖をそんなに感じたことがなくって、だから母が言った「怖い」という言葉が衝撃的で新鮮だったんですね。死ってつらくて怖くて悲しいものというイメージができあがってるけれど、もしかしたら気持ちいいかもしれないし、違う側面があるかもしれない。それを提示してみたいなって。

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