林:この「ライオンの家」というホスピスに入っている人たちは、管につながれたり寝たきりにされたりしないで、少しずつその日に向かって進んでいくわけで、こういう理想的な死が訪れるところがあったらいいですよね。

小川:ほんとですね。どう死ぬかは、それまでどう生きてきたかにつながっていると思うんです。さらにいえば、死って、大きなパワーを秘めてるのかもしれないな、って、母が亡くなってから感じるようになりました。

林:小説のなかで、日々の恐怖だとか孤独を救ってくれるのがおやつなんですよね。カヌレとか、台湾の白いフワッとしたお豆腐のようなスイーツとか、ほんとにおいしそうで、読みながらついつい私もおやつを食べちゃいましたよ(笑)。小川さん、ふだんおやつを召し上がる習慣はありますか。

小川:コロナの世の中になってから、3時ぐらいをお茶の時間と決めています。家に何かしらある甘いものを食べて、小さい急須でお茶をいれて飲んでいます。ちょっとした焼き菓子とか、素朴なものが好きですね。

林:ご自分でもつくるんでしょう?

小川:はい。甘いものが何もないときは、卵と粉とお砂糖があったら、スポンジケーキを焼くとか。

林:ほんとに小説の主人公そのものですね。この『ライオンのおやつ』は書きおろしですか。

小川:そうなんです。

林:やっぱり。村上春樹さんとか東野圭吾さんとか、いま売れっ子の人は連載なんかやらないで、書きおろしですからね。理想的なスケジュールで、私にはそんな日がいつ来るか、という感じですけど。

小川:私は締め切りに追われるという状況が苦手で、もし連載になっても、最後まで全部書いてから、それを分割して出すんです。

林:そういう作家生活がいちばんうらやましいな。小川さんは『食堂かたつむり』(2008年)でデビューなさったんですね。あそこに出てくるお料理、どれもおいしそうだし、小川さんの人柄も出ているし、今の世の中はこういうやさしい小説を欲してたんだろうなとつくづく思いましたよ。不倫だとか、殺人だとかじゃなくて。

次のページ