小川:でも、私、癒やし系って言われるんですけど、そんなにポカポカしてるわけでもないという気がしてるんです。

林:たしかにそう。小川さんって、作品にわりと毒を入れてくるんですよね。『食堂かたつむり』でも、亡くなったお母さんの形見の豚ちゃんを育てるのかと思ったら、解体して食べちゃうじゃないですか。

小川:アハハハ。

林:それも小川さんのすごいところで、解体業者に持っていって、「あら、肉になっちゃったわ」じゃなくて、リアルに、おなかを切って内臓を取り出して、肉を刻んでいくから、私なんか「ヤだァ~」という感じでしたよ。ああいう毒を仕込んでいるところが、単に癒やし系じゃないですよね。ちなみに小川糸さんって、何とも言えない素敵な音色ですが、ペンネームですよね。

小川:もともとは、言葉と言葉をつなぐという意味で「糸」とつけたんですけど、糸を上手につなぐには針のようにチクッとするものも必要で。書く道具として、「針」はすごく大事だなと思っています。

林:なるほど。小川さんは山形県ご出身ですけど、作家になりたいと思ったのは、いつなんですか。

小川:私の通った小学校では、日記を書いて、それに先生がコメントをくれるという教育をしていました。そこに私は、日々の出来事を書いたりせず、物語の断片というか、空想の世界のことを書いてたんです。それを先生がほめてくれたのが、すごくうれしくて。

林:ほォ~。

小川:それが原点になっているので、物語を書きたいなという思いは10代の後半からあったんですけど、大人になるにつれて、それがいかに大変かということもわかってきて。だから、そう簡単になれるものではないなと思っていました。

林:東京の大学では何を専攻されてたんですか。

小川:古代日本文学です。『古事記』ですね。

林:文学少女は誰でも考えるように、編集者になりたいとは考えなかったんですか。

小川:学生のとき、まずはそう考えました。雑誌のライターになろうと思って、編集プロダクションに入ったんです。

林:あら、それは厳しい道を選びましたね。プロダクションではどんな仕事をされたんですか?

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