「5~10年と期間が限られるので具体的な金額が見えてきます。民間の年金は給付期間が5~10年の有期がほとんどですから、そうした実態にも合っています」(同)

 WPPを実際の家計に落とし込むと、どうなるのか。さまざまなシミュレーションの実績があるのは、ファイナンシャルプランナー(FP)の長尾義弘氏だ。

 谷内氏がWPP理論を発表したのは18年の日本年金学会だったが、実は同じ年に、長尾氏はWPPと考え方を同じとする、年金繰り下げを推奨するマネー本(『老後資金は貯めるな!』)を出版している。

「WPPを聞いたときは『同じじゃないか!』とビックリでした。当時、私は還暦を前に自分の老後資金のことをあれこれ考えていたんです。運用しようとすると100%の保証はない。では、どうすればいいかを考えていて行き当たりました。年金繰り下げなら安全で合理的、しかも初心者でもできます」(長尾氏)

 偶然の一致には驚くばかりだが、それはともかく、家計のシミュレーションである。長尾氏は、厚生労働省のモデルに近い世帯、ここでは架空の「鈴木家」を想定して考えたいと言う。次のようなケースだ。

 鈴木家には、65歳時点で貯蓄2千万円があるとする。夫の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金合わせて年間200万円、妻の年金は両方で100万円とし、65歳以降の生活費は総務省の家計調査の平均値より少し上の年間400万円とする。

 普通に65歳から年金をもらい始めると、2人の年金収入300万円に対して支出は400万円なので、毎年100万円の赤字が出る。すると2千万円の貯蓄は20年しかもたない。

「私は、貯蓄は2人の介護費用として800万円準備できていればいいとする考え方をとっています。とすると、2千万円の貯蓄のうち1200万円は60代後半に使っていいことになります」(同)

 つまり、年間240万円が使えることになる。これに年間160万円を就労収入で稼げれば、繰り下げ待機生活が成り立つ。アルバイトでもいいし、勤め先に就業確保策があればそれでOKだ。

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