「需要あるところに供給あり」か、あるいは「必要は発明の母」か──。国の意図をふまえ、時代の流れにのって生活する方法が、ここにきて出始めている。しかも、それがAさん夫婦の実践とピタリと一致するのである。

「考え方」として支持を広げているのは、日本年金学会の幹事も務める第一生命の谷内陽一氏が提唱する「WPP」理論だ。

「W」は「Work longer」、つまり「長く働く」。一つ目の「P」は企業年金など私的年金を指す「Private Pension」で、最後の「P」は公的年金を指す「Public Pension」。

 谷内氏が説く。

「会社を定年後、公的年金を受けながら、同時に企業年金や個人年金の私的年金を上乗せして老後の生活費を賄う、しかも両方とも終身、これが昔からの理想でした。しかし、低金利や長寿化で私的年金を終身にするのが厳しくなってきました。そこで、終身部分は公的年金に寄せて、そこ(公的年金)を増やして長生きリスクをカバーしようという考え方です」

 公的年金を増やすには繰り下げが必要になる。1カ月遅らせるごとに0.7%増え、65歳からもらう年金を上限の70歳まで遅らせれば年金額は42%増やせる(2022年4月以降は上限が75歳まで拡大)。しかし、繰り下げるには、その間の生活費がいる。そこで、企業年金や退職金、自助努力で貯(た)めた個人年金や貯蓄を、繰り下げ期間に集中投入して、繰り下げを成功させる。公的年金は終身だから、70歳以降は増額した公的年金で安心した老後が送れるというわけだ。

プロ野球のピッチャーを考えてください。昔の『先発完投型』が、すっかり『継投型』に切り替わりました。それと同じで、先発である就労が厳しくなってきたら私的年金に中継ぎを頼み、最後は抑えの切り札を投入、増額した公的年金で締めるわけです」(谷内氏)

 なるほど、確かにわかりやすい。とりわけ自助努力の側面が大きくなる「中継ぎ」部分で目標を立てやすくなるのがミソという。

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