横尾忠則「僕にとっては宝物」 “タヒチ娘と亀のロマンチック物語” (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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横尾忠則「僕にとっては宝物」 “タヒチ娘と亀のロマンチック物語”

週刊朝日
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。

 99歳の瀬戸内寂聴さんと84歳の横尾忠則さん。普段は往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう2人ですが、今回は特別編として横尾さんからの2話をお送りします。

【瀬戸内寂聴さんの写真はこちら】

*  *  *
 セトウチさん

 世の中には不思議なことが多いですね。僕は子供の頃から超常現象的な不思議なことをいろいろ体験してきました。いつか話しますが、でも今日、話す話は現実の不思議な奇跡的な話です。怖い話ではありません。51年前の話です。

 仕事をかねてタヒチのボラボラ島に行った時の話です。映画「最後の楽園」のロケ舞台になった島です。海岸に面した椰子の並木の間にポツポツとバンガローが点在していて、そこに泊るんです。そして朝食は海岸から海に出っぱったレストランに桟橋を渡って行くのです。

 そのレストランで毎朝会うひとりのタヒチ娘がいました。毎日、髪に昨日と違った花を飾って、いつもひとりで朝食をしていました。2日目から、そのタヒチアンはニコッと白い歯を見せて会釈を送ってくれるようになりました。

 そんな彼女がある朝、隣のテーブルから話し掛けてきました。フランス語です。タヒチはフランスの植民地だったと思います。フランス語は「メルシーボク」と「オニバ」(行きましょう)しか知りません。ここでまさかオニバとは言えません。片言の英語で話そうとすると、彼女は英語で話しました。

 話の内容はこういうことです。

「あなたと会うのも今日限りです」。「ハイ僕も今日タヒチのパペーテへ行きます」。「私はパリに行きます。そして向こうで結婚します」。「イヤー、それはコングラッチュレーション! 僕も日本に帰国したあと、パリの展覧会のためにパリに行きます」。「アーティストですか。会えるといいですね」。約束でもしない限り会えるはずはない。

 そして、何カ月後かにパリに行った。彼女のことなどすっかり忘れていた。地下鉄でサンジェルマンデプレ駅で降りようとした時、入れかわりにひとりの女性が乗ってきた。フト顔を見ると、ボラボラで会ったタヒチアンじゃないか。彼女も僕を認識して驚いた顔をした。僕はホームに立ったまま彼女を見つめた。彼女はすでに車中の人。その時、彼女は大声で「ボラ! ボラ!」と叫んだ。ドアが閉まって電車は彼女を乗せたまま、2人の距離を離してしまった。


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