新型コロナウイルスの感染拡大が続き、全国いたるところで、悲劇が生じている。どこを見ても悪いことばかりなのだが、一つだけ良いことがある。
それは、コロナ禍でデジタル化の遅れが明らかになったことがきっかけで、日本経済や技術のレベルが世界の中でいかに遅れているかが、多くの人に理解されたことだ。
私が通商産業省(現在の経済産業省)に入省した1980年当時、エズラ・ヴォーゲル氏の著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーになり、まさに日本経済は絶頂期にあった。
バブル経済崩壊直前の90年の日本のGDPは、米国の半分に達し、世界2位。3位のドイツの2倍近く、中国の8倍の規模で、米国以外は寄せ付けない強さだった。だが、その後の凋落は早かった。2010年には、中国に抜かれ世界3位に転落。直近では、日本のGDPは、中国の3分の1、米国の4分の1まで縮んだ。ドイツもすぐ後ろに迫っている。
豊かさを測る代表的指標である1人当たりGDPで見ても、90年代から02年まで一貫して世界ランクで一桁、最高2位まで行ったが、19年にはなんと世界25位まで転落した。アジア(中東を含む)でも6位。マカオ、カタール、シンガポールの背中は霞むほど遠ざかった。
日本企業も同じだ。時価総額世界トップ100に入るのは、今やトヨタ、ソフトバンクグループ、ソニーグループ3社のみ。最高位トヨタでさえ、世界32位で、米新興電気自動車メーカー・テスラ(8位)の足元にも及ばない。
そんな日本を率いる菅義偉総理は、デジタルとグリーンを経済政策の旗印に掲げ、日本がこれらの分野で世界をリードしたいと大見えを切った。デジタルと言えば半導体。その確保が一国の経済の死命を制する時代が到来した。今こそ半導体王国日本の出番だと思う人は、「昭和病」だ。実は、日本企業は売り上げランキングで世界のトップテンに入っていない。しかも、最先端微細化技術では、台湾TSMCと韓国サムスン電子に大きく離され、日本企業は競争から離脱した。経済産業省主導の日の丸プロジェクトの連戦連敗が主な原因だ。