「頬の内側の粘膜をこすり取るだけでできる簡便な検査で、一気飲みによる急性アルコール中毒の予防にもなります。ある若い男性の食道がん患者さんは当院の検査で二つともが異常と判明し、『体質を知っていれば酒との付き合い方が違っていた』とおっしゃっていました」(石原医師)

 食道がんの早期発見には上部消化管内視鏡検査が有効だ。いわゆる胃の内視鏡検査で、胃をチェックするときに食道も見てもらうことができる。

 食道がんは早期ではほとんどが無症状。早い段階での発見はその多くが人間ドックなどで受けた内視鏡検査によるものだ。

 最近は内視鏡の精度が高まり、より正確に小さながんを発見できるようになった。粘膜を大きく写す「拡大内視鏡」や内視鏡から出る光の波長を変えることで、粘膜の変化を強調する「NBI内視鏡」などがそれだ。

「飲酒の習慣がある人は一度、検査を受けるべきです。ただ、大量飲酒など不摂生の自覚がある人は、『医師にあれこれ注意されるのでは』と検査を受けたがらないもの。ご家族など周囲の人が背中を押してあげてほしいと思います」(同)

 中島医師は、コロナ禍によるがん検診の受診控えを心配している。

「昨年春の緊急事態宣言以降、医師仲間から、『進行した食道がんの患者さんが増えている』という声を少なからず聞きます。予定していた内視鏡検査を患者さんが延期した影響などが考えられます」

 検査を受ける際の注意点もある。

「食道がんは胃がんと比べ、患者数が少ないこともあり、注意して見てもらえないこともあり得る。あらかじめ、『お酒を飲むので、食道もよく見てほしい』などと伝えるといいでしょう」(石原医師)

 中島医師は、鼻からカメラを入れる「経鼻内視鏡」を推奨する。

「通常の口からの内視鏡だと、のみ込んだ瞬間に、カメラが食道の奥に入るので頸部をよく確認できないことがあります。実際、頸部食道がんの見落としは珍しいことではないのです」

 食道がんが見つかったら、精密検査を受ける必要がある。他のがんに比べ、診断・治療に高い専門性が必要なため、食道がんを多くみている経験豊富な病院を受診するのがベストだ。

「精密検査では再度、内視鏡検査をおこないます。検査で最も重要なのは『根を張っている』がんかどうかの見極め。根を張っていれば食道の粘膜を越えている可能性が高い。粘膜内にとどまる0期であれば内視鏡治療が可能です」(石原医師)

 検査ではヨード染色(染色液を食道に散布し、染色の濃淡でがんを見つける)、拡大内視鏡や超音波内視鏡などで詳しく調べていく。

 少しでも食道がんが気になる人は、積極的に内視鏡検査を受けてほしい。(ライター・狩生聖子)

週刊朝日  2021年4月9日号