菅義偉首相 (c)朝日新聞社
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新型コロナウイルスのワクチンをめぐる時系列 (週刊朝日2021年2月26日号より)
新型コロナウイルスのワクチンをめぐる時系列 (週刊朝日2021年2月26日号より)

「国内産、国外産の別を問わず、全体として必要な数量について、供給契約の締結を順次進める」

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 2月5日に都内で開かれた自民党新型コロナウイルスに関するワクチン対策プロジェクトチーム(PT)の役員会。出席者に配られた「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について(案)」と題する資料には、こんな一文が盛り込まれていた。

 政府はすでに複数の製薬会社とワクチンの供給契約を結んでいる。これと矛盾するかに見える「供給契約の締結を順次進める」との文言に違和感を覚えた自民党議員は、説明役の政府担当者に次のように問いただした。

「今の段階で『供給契約の締結を順次進める』というのは、おかしい。文書作成時には気を付けてほしい」

 ワクチンが十分に確保できていないという印象を与え、誤解を招くという危惧があったようだ。だが、担当者はこの問いにはっきりと返答せず、後に一般公開された文書にも文言はそのまま残った。議員の指摘は、なぜ聞き流されたのか。内情に詳しい政府関係者が衝撃の事実を明かす。

「実は、政府が製薬各社と結んだ契約は全国民にワクチンを行き渡らせるのに十分なものではなく、供給スケジュールも実質的には白紙の状態です。具体的な供給契約の締結に向けた交渉をこれからも進めていかねばならない状況なのです」

 契約をめぐってはPTの複数の出席者から「ファイザー社の契約書の契約内容や日本への供給時期を教えてほしい」と要望が相次いだが、担当者は、「契約書の内容はお答えできません」と突っぱねたという。PTの事務局長を務める古川俊治参院議員は「会合を通じて契約内容についての情報が提供されなかった」と認める。

 これから供給契約を締結するのだとすると、日本は今後、計画しているとおりの量のワクチンを入手できるのだろうか。前出の政府関係者は暗い見通しを語る。

「国民に確実に供給できるのは2月12日にファイザー社から成田空港に届けられた第1便の約20万人分だけで、それ以降は不透明です。つまり、政府はワクチン確保に失敗している。G7でワクチン接種を開始できていないのは日本だけですから、日本の交渉と契約がいかにいい加減だったか、ということだと思います」

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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