※写真はイメージです (GettyImages)
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高齢者のネット利用率 (週刊朝日2020年12月4日号より)
高齢者のネット利用率 (週刊朝日2020年12月4日号より)

 高齢者がインターネット通信販売で何度も同じ商品を購入する多重注文のトラブルが出始めている。認知機能の衰えが主な原因だが、法的な保護は不十分で、企業・業者の多くも対策はこれからだ。コロナ禍で外出できない高齢者のネット利用が増えるなか、早急な対応を求める声が上がっている。

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 認知症の80代女性は、ネット通販で高額商品の注文を繰り返していた。化粧品や洋服など必要のない商品だったため、娘が電話で業者に注文を受け付けないよう依頼すると、業者は応じた。

 ところが、女性(母親)は夫(父親)の名前を使い、再び注文し始めた。気付いた娘が取引履歴を調べると、購入総額は約180万円に上っていた。娘は業者に母親の事情を伝えており、「注文者は違っても同じ住所なので状況を推測できたはずだ」と思ったが、業者は返品などの要求に応じなかった──。

 これは、国民生活センターに寄せられたトラブルの事例だ。認知症高齢者の買い物について、大妻女子大学の是枝祥子名誉教授(介護福祉学)が説明する。

「何かを見て、必要だと思って行動することはできます。ただ、認知機能の低下で覚えられず、忘れてしまいます。それを買った記憶がないのです」

 認知症の人が店頭で同じものばかり買ってしまうトラブルは以前からあった。介護福祉士の中村楓さんが例を挙げる。

「卵を何パックもとか、豆腐をたくさん買い続けるというケースです」

 これと同様のことが、ネット通販で起きている。購入ボタンを何度もクリックし、多重注文してしまうのだ。ネットを利用する高齢者は増えており、被害の拡大が今後予想される。しかし、認知症の人やその家族を守る仕組みは十分ではない。

 訪問や電話など不意打ちの販売勧誘にはクーリングオフ(無条件解約)制度があるが、ネット通販は店舗販売と同様に適用されない。

 消費者契約法では、業者が認知機能の低下につけ込んで高齢者に大量の商品を買わせたら、注文を取り消せる。だが、ネット通販は「注文を受けて商品を引き渡しているだけ」なので適用されない。消費者庁の担当者は、こうした問題について「現時点では検討していない」と話す。

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