東京都内で行われた自動走行実験の様子。運転手は席にいて、いつでも手動運転に切り替えられる状態で走行している(ティアフォー提供)
東京都内で行われた自動走行実験の様子。運転手は席にいて、いつでも手動運転に切り替えられる状態で走行している(ティアフォー提供)
ARグラス「AceReal One」の使用例。画面を通して作業を遠隔支援できる(サン電子提供)
ARグラス「AceReal One」の使用例。画面を通して作業を遠隔支援できる(サン電子提供)

 各社が開発にしのぎを削る自動運転車が、いよいよ本格的に実用化される。4月1日に施行された改正道路交通法により、高速道路上で渋滞時に同車線上を時速60キロ以下で走行するなど、一定の条件下で自動システムに運転を任せられる「レベル3」の自動運転が法的に解禁された。ホンダが年内発売を目指す高級セダン「レジェンド」の最新モデルは「レベル3」の自動運転車だ。

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 自動運転機能を搭載したテスラのモデルXを運転する前出の中島氏は、自身の体験を踏まえて海外事情をこう語る。

「テスラ社のイーロン・マスクCEOは『レベル3』から、決められた区域内でシステムがすべての運転を実施する『レベル4』へと順番に開発・進化させようとしています。すでに世界中で『レベル3』までの市販車両が数百万台走っており、大量のデータを収集している。他メーカーより2、3年先行しています。一方、自動運転車を開発するウェイモを抱えるグーグルは一気に『レベル4』や完全な自動運転である『レベル5』を実用化しようとしています」

 日本国内でも自動運転車の開発が進むが、米国に比べるとデータの蓄積量は少ない。完全自動運転システムを手がけるティアフォーの安藤俊秀氏は、日本式の戦い方を明かす。

「我々が自動運転に用いる名古屋大学開発の『Autoware』は、オープンソースソフトウェアです。幅広く使ってもらうことで、大学や企業の垣根を越えてデータを集める産学連携の体制を整えています。10~15年以内には、厳しい公道の環境でも限定されたエリアでは自動運転を行う環境が整ってきます。例えば新宿駅から埼玉の自宅まで自動運転車が送迎してくれる……といった未来が来るでしょう」

 もう一つの課題は安全性だ。“自動運転=危ない”というイメージを払拭する必要がある。ただ、交通事故は有人の車でも頻繁に起きており、19年中の交通事故による死亡数は3215人。自動運転が実用化されても、交通事故がなくなることはおそらくない。

 前出の中島氏はこう語る。「技術が人間に追いついても、人間と同じ頻度で事故を起こすようでは社会に許容されないでしょう。人より10倍安全になって、初めて社会に許容される。そのレベルに達するのに5年以上かかるでしょう。そうすれば社会的に認められ、どこかの特区や市街地単位で普及が始まります。全国、そして世界に広まるのは30年ごろではないでしょうか」

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