スマートグラスとも呼ばれる「AR(拡張現実)グラス」。バーチャル世界を見せるVR(仮想現実)グラスと異なり、道路に怪獣を出現させるなど、ディスプレーを介して現実世界にデジタル映像を重ねて表示できる次世代商品だ。米アップル社の「アップルグラス」が発売間近と噂されている。

 ARエンタメを提供するENDROLLの前元健志社長がこう解説する。

「パソコンのディスプレーなどと違い、目にすばやく情報が飛び込んでくるので、より手軽で自然に情報に触れられます。極論、テレビや紙、信号機がいらなくなる。従来のビジネスモデルを大きく変化させる可能性を秘めています」

 国内で産業用ARグラス「AceReal One」を手がけるサン電子の近藤誠氏は、グラス越しに表示されたキーボードに触ると文字情報が入力できる「仮想キーボード」などの技術は、ARグラスが世に送り出された当初から実用化されていると説明する。

「ただ、現時点ではまだ操作性や自然な見え方に課題があり、使い勝手は良くありません。スマホやパソコンを上回る便利さになって、やっと普及するでしょう」(近藤氏)

 近藤氏は、ARグラスの普及にはこんな壁があると語る。

「情報機器は魅力的なソフトがあって初めてハードが普及するという歴史をたどっています。ARグラスにはまだ、『キラーコンテンツ』となるソフトがない。産業向けに限れば、熟練の技術を必要とする工事現場の作業員などをARで遠隔支援するソフトがすでに実用化されています。コロナの影響もあって今後は一般向けのサービスも普及が進むかもしれません」

 一方、前出の中島氏はアップルグラスの登場が起爆剤になると語る。

「アップルが優れたハードを作れば、ソフトは一気に進化する。たとえば目の前を歩く人の服のブランド名と価格がグラス越しに表示され、その場で買える世界が来る。23年ごろにはそんな世界が実現すると思います」

 世界にスマホ以来の衝撃を与える気配あり、だ。(桜井恒二)

週刊朝日  2020年11月13日号