古賀茂明氏
古賀茂明氏
安倍晋三氏と菅義偉氏(c)朝日新聞社
安倍晋三氏と菅義偉氏(c)朝日新聞社

 安倍政権では、官僚たちが、良心も正義感も、不正と闘う勇気も失ってしまったのではないかと思わせるような事件が相次いだ。

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 その原因はいくつかあるだろう。「官僚支配」もその一つだが、もう一つ大きな影響を与えたのが、安倍総理個人の「倫理規範」だ。

 官僚たちは、常に自分たちの上に立つ最高責任者の言動を見ている。その安倍総理は、今度こそ終わりだと思われるような個人的スキャンダルが起きるたびに、非常におかしな言い訳をしてきた。最も典型的なのは、森友学園問題でよく出てくる「検察が捜査を行い、結果が出ている」という言葉だ。また、野党の追及に対して、「証拠があるのか」というような態度を示すこともよく目にした。

 こうした言動の背景にあるのは、「政治責任や道義的責任はどうでもよい。捜査当局に捕まらなければ悪いことにはならない」、さらには、「証拠が見つからなければ許される」という安倍総理独特の倫理規範だ。一般人の感覚よりもはるかに不正へのハードルが下がった倫理規範だと言ってよいだろう。一国のリーダーとしては、信じられないレベルだ。

 こうした安倍総理の言葉を聞けば、まじめな官僚たちでさえ、何か政権に都合の悪いことを見たときに、「安倍総理が逮捕されないようにしろ」「証拠は隠せばよい」と促されているように感じてしまう。今や官僚機構のガバナンスは崩壊の危機にあると言ってもよい。

 幸か不幸か安倍氏の退陣が決まり、その後を菅義偉官房長官が継ぐことがほぼ確定した。これまでの問題がリセットされ一気に解決すると期待したいところだ。

 先週号では、菅氏は、安倍政権の二つのレガシー、「官僚支配」と「マスコミ支配」を継承するだろうという話を書いた。

 今回取り上げるのは、菅氏が安倍総理個人から「倫理規範」まで引き継ぐのかどうかという話だ。菅氏が官僚支配を継承し、しかも安倍総理の倫理規範を引き継げば、安倍政権の官僚機構の大問題はそのまま「継承」されることになる。仮に菅氏が健全な倫理規範の持ち主だとして、官僚が染まった安倍氏の倫理規範からどうやって脱却させることができるのだろうか。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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