実際、伊藤医師も漢方医学的な診断のもとにエキス剤などを使い、結果として清肺排毒湯に類した処方によって治療にあたった例があるという。

「コロナ流行初期のころ、37度5分以上が4日以上続かないと検査が受けられなかった時期に、そういう患者さんを診たことがあります。おそらく漢方専門医のなかには清肺排毒湯を使ったり、参考処方で治療した医師がいる可能性があります」(同)

 現在、日本東洋医学会は、「COVID-19一般治療に関する観察研究ご協力のお願い」という告知をホームページに掲載している。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症患者(疑いも含む)に対する、西洋薬、漢方薬治療による症状緩和、重症化抑制に関する多施設共同の観察研究への協力のお願いだ。日本感染症学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本病院総合診療医学会、日本救急医学会、日本呼吸器学会といった学会にも協力を求めている。

「東北大学病院漢方内科の高山真医師が中心となっておこなう研究です。これまで処方した事例を集めて分析する観察研究ですが、重要な研究と言えます」(同)

 新型コロナの第2波への備えが注目されるが、今後、別の新たな感染症が流行することも想定しておかねばならない。その対処法の一つとして、西洋医学だけでなく漢方も選択肢に入れておくべきで、漢方専門医の育成も重要になってくると伊藤医師は強調する。

「現在、日本に30万人いる医師の中で、日本東洋医学会が認定する漢方専門医はわずか2千人程度です。より多くの医師が漢方医学の学習をされて対応できるようになることが望まれます」

 前出の永井医師はこう話す。

「医学部における漢方教育は少しずつ進んでいますが、医師国家試験に漢方の問題が出ていないため、漢方の普及は望めません。和漢薬という日本の宝を持ちぐされにするのは残念です。今回のコロナを機に、新しい医療体系を模索すべきです」

 来たるパンデミック(世界的大流行)時代に対処する医療の構築が急務であることは間違いない。(ライター・伊波達也)

週刊朝日  2020年8月7日号