北九州市内の中学校の職員室を消毒する作業員たち(C)朝日新聞社
北九州市内の中学校の職員室を消毒する作業員たち(C)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る

 新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が5月25日、全国で解除された。通勤する人の姿が少しずつ増え、繁華街にも灯りが戻りつつある。しかし、感染は完全に収まったわけではなく、次の感染拡大の波の到来が懸念されている。

 しばらく感染者ゼロが続いていた北九州市では、5月23日から29日までの7日間で累計69人の感染者が確認された。うち27人の感染経路がわかっていない。もし、「第2波」で対策が後手に回れば、第1波以上に被害が深刻になる可能性さえあるのだ。

 第2波に備えるにはウイルスの正体を見極める必要があるが、目下のところ謎とされているのが、地域による新型コロナの致死率(感染者に占める死亡者の割合)の違いだ。日本などのアジア諸国と欧米諸国の致死率を比較すると、明らかにアジア諸国や中東諸国のほうが低いのだ。致死率の高さは特にヨーロッパ諸国で顕著で、フランスが約15%、英国とイタリアが約14%となっている。一方、アジア諸国を見ると、日本は約5・3%、韓国が約2・4%、中国が約5・6%だ。

 こうした地域差はなぜ起きたのか。その謎を解くカギは、コロナウイルスの全遺伝情報(ゲノム)にあるのかもしれない。英ケンブリッジ大学の研究チームが世界で検出されたコロナウイルスのゲノムを解析したところ、遺伝子変異のパターンは3種類に大別されることがわかった。起源とされる中国雲南省のコウモリから見つかったウイルスに近いタイプと、武漢市を含む中国とその周辺国に多いタイプ、欧州を中心に広がったタイプだ。最初に中国の武漢で感染拡大したウイルスが変異をくり返しながらアジアで広がり、欧州で強毒化した可能性も考えられる。

 今後、第2波、第3波でさらに感染力や毒性の強いウイルスが現れる恐れはあるのだろうか。ゲノム医療の世界的な第一人者である中村祐輔・シカゴ大学名誉教授に話を聞いた。

※    ※
  
 新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同様に、遺伝情報をDNA(デオキシリボ核酸)ではなく、RNA(リボ核酸)の形で持つRNAウイルスだ。生物の細胞内に侵入すると、自己のRNAをどんどんコピーして増殖する。今回の新型コロナを含めRNAウイルスは、その変異の勢いが凄まじいという。

次のページ
すでに4600種類の遺伝子配列。日々変化するウイルス