他にも、アジアで致死率が低い理由について調査すべき課題は山積している。アジアでは風邪のコロナウイルスやSARS、MERSなどの感染が広がり、それが今回の新型コロナにもある程度、免疫反応を起こしているのではないかという見方もある。だが、SARSやMERSの患者発生がなかった日本はこれには当てはまらない。

「ほかにも、人種や民族によって白血球の型が違うので、免疫反応も異なる可能性が考えられます。新型コロナが急激に重症化するのは、ウイルスに対する免疫反応が過剰に起こるサイトカインストームが原因ともいわれています。免疫反応が強すぎて、感染した細胞だけでなく正常な細胞まで傷つけてしまうのです。ですから、抗体やTリンパ球細胞を含めた免疫反応の分析も急がなければなりません。あらゆる情報が組み合わされば、重症化の因子が必ず見つかるはずです」

 これまで日本の感染症対策は後手に回ってきた。中国からの観光客の入国禁止措置が遅れ、水際対策に失敗したことや、PCR検査数の少なさが海外からも批判されてきた。それにも関わらず、感染者が減少傾向にある現状に対して海外メディアは驚きの目を向けている。

 米紙フォーリン・ポリシーは日本の新型コロナ対策について「何から何まで間違っているように思える」と指摘しながら、「不思議なことに、すべてがいい方向に向かっているように見える」と伝えている。オーストラリアの公共放送ABCの記事では、日本の成功について「不可解な謎」と表現。公共交通機関の混雑ぶりや高齢者人口の多さなど「大惨事を招くためのレシピのようだった」としている。

 中村医師は第1波が収束に向かっていることについて「たまたまラッキーなだけ」と言い切る。

「確かに法的な強制力がない中での、国民の自粛レベルは驚異的だったと思います。しかし、日本は遺伝子研究が必要とされる医療分野の準備を怠ってきました。そのツケが、PCR検査の立ち遅れにつながっているのです。『過ちて改めざる、これを過ちという』の典型が日本の感染症対策なのです。もし、ヨーロッパ型のウイルスが本格的に入ってきたら、現状では済まないでしょう。100年前のスペイン風邪は第2波のほうが病原性は強まり、世界中で多くの死者を出しました。第1波が広がったなかで多くの変異を遂げたからです。現在より毒性の強いウイルスが生まれてくれば、間違いなくもっと悲惨な状況になるのです。第2波が迫ってくるまでの間に、PCR検査やウイルスの遺伝子解析のためのインフラ整備をするべきです。いま、その準備ができる数少ないチャンスなのです」

 さらに強毒化した第2波が世界を襲った時、日本ははたして持ちこたえられるのだろうか――。

(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日オンライン限定記事