打者では花咲徳栄(埼玉)の長距離砲・井上朋也。昨夏も出場し、2年生ながら4番を務めた。

「打席に向かうまでの姿に、狂気とも表現できる凄みを感じる選手。集中力は並の高校生ではなく、将来的にプロでもクリーンアップを打てるとみています」

 安倍氏自身は捕手出身とあって、捕手の注目株も挙げる。日大藤沢(神奈川)の牧原巧汰だ。

「長打力は超高校級で、広角に本塁打を打てる。守備でも送球スピードと精度はすでにプロ級。大阪桐蔭時代の森友哉(現・西武)を彷彿とさせますね」

 いずれも出場すれば全国のファンを沸かせたはずの逸材たち。甲子園を経てプロへと羽ばたく球児も多いが、その舞台がなくなってしまった。果たして秋のドラフト会議はどうなるのか。巨人の元編成担当で長年、スカウトからの情報を集めてきた三井康浩氏は「例年より高校生の指名が大幅に減る可能性がある」と語る。

「スカウトは選手の実力の伸び率を重視します。特に3年生の春から夏にかけて目覚ましい成長を遂げる選手が多い。夏の大会を見て、選手の急激な成長に、ここが取りどころだと判断すればドラフトにかけますし、伸び率が足りなければ大学、社会人を見ようかとなる。今年はその時期に長期間チェックができないわけですから、選手の力を把握しようがない。それまでの評価だけでドラフトに向かうのはリスクが高く、指名を見送ることも考えられます」

 図抜けた実力の持ち主であればドラフト指名に希望を持てるが、「プロに入れるか否かという選手にとってはピンチ」だという。また、体力面にも不安が残る。

「いざ年が明けてプロ入りして、体力的についてこられるかという心配があります。3年間みっちり鍛えていても、しんどいと感じるのがプロの世界。半年のブランクは大きく、どうしても指名に積極的にはなれないでしょう」(三井氏)

 また、甲子園という大舞台を経験することによる精神面での成長も大きく、そうした機会が失われる影響も無視できないという。

 もっとも、活躍の舞台がまったくなくなるわけではない。日本高野連は20日の会見で各都道府県による地方大会の代替大会について、「自主的な判断に任せる」とした。地方ごとの代替大会が開催されれば、「スカウトは必ず見に行きます」と三井氏は言う。ただ、開催の判断が地域によって異なれば、スカウトに見てもらえない都道府県が出て、不公平感が生じる懸念はある。

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