「民法の修理(修繕)は、マイナスの状態を元のゼロの状態に戻すことです。改築や増築、トタン屋根を瓦ぶき屋根にリニューアルするといったことは認められません。大家と借り手の受け止め方が異なるケースも想定されるので、よりきめ細かい契約書が必要になるでしょう」(同)

 設備の故障や建物の破損があれば、その規模や割合に応じて家賃を下げてもらえる。どのくらい下げるかは大家との交渉次第だ。

「飲食店が入るビルで新型コロナウイルス感染者が出たと想定し、消毒のため休業を余儀なくされた場合はどうなるのか。結論から言えば、ケース・バイ・ケースです。新型コロナウイルスが台風や地震のような天変地異にあたるのか、消毒が国や自治体などの命令にもとづくものなのか、さらには大家や借り手の価値観にも左右されます」(同)

 日本賃貸住宅管理協会は目安を示している。例えばトイレが使えなくなった場合は、1カ月あたりの家賃の2割相当分を、使えない期間に応じて日割りで減らしてもらえる。実際はもっと複雑なので、専門家に相談しよう。

 最後に相続についておさらいする。「配偶者居住権」の制度が始まり、夫が亡くなった後に残された妻が自宅に住み続けながら、一定の現金も確保しやすくなる。

「配偶者短期居住権」の制度も始まる。遺産分割協議がまとまるまで、最低でも6カ月は無償で住み続けられる。妻が自宅を相続できなくても、すぐに自宅を出ていかなくてよくなる。

 7月10日からは、自筆証書遺言を法務局が預かる制度もスタートする。形式的な不備がないかどうかをチェックしてもらえ、紛失や偽造の恐れがなくなる。家庭裁判所での「検認」の手続きもいらなくなる。手数料など決まっていない点もあるので、これから自分で遺言を書く人はチェックしておこう。

 ここまで見てきたもの以外にも請負契約に関するものなど、変更点はいろいろある。全てを把握するのは難しく、悩んだら弁護士ら専門家に相談することが大事だ。

「法律は文字で書かれているので、現実とはどうしてもずれが生じます。解釈や争いの余地は常にあるものです」(同)

 コロナショックで経済が混乱するなか、新年度を迎える。家計も苦しくなるなかお金や暮らしのルールに気を配って、損をしないようにしたい。(本誌・池田正史、浅井秀樹)

週刊朝日  2020年4月3日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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