「ちょうど反抗期で、ノートに『みんな死ね死ね死ね』みたいなことを書いていたんです。そしたら親父が本当に入院して死んでしまった。自分が殺したんじゃないか、と思いました」
父を看取った病院で忘れられない出来事があった。
「バイタルサインを示すモニターの線が真っすぐになったとき、お医者さんが心臓マッサージを始めたんです。そしたら線がピコンピコンって跳ねた。でも彼は『あ、これは反動だけだな』と言って、腕時計を見ながら『○○時○○分、ご臨終です』と」
ひどくあっさりした言い方に驚いた。
「祖母が泣きだして、湿っぽいのはいやだから廊下に出たんです。そしたらそんな気持ちでもないのに、涙がボロボロと出てきた」
すると、いきなり後ろから肩を抱かれた。
「さっきのお医者さんだったんです。しかもボロ泣きしていた。『お父さんはこんなことになったけど、いつか医療の力でみんなが助かるようになるからな。ごめんな!』って。あんなに淡泊に看取ったのに……いまも印象に残っています」
今回の役作りに、あのときの経験が生きているかもしれない。
「一人ひとりの死は医師の胸のどこかに残っているものかな、と思います」
母を亡くしたのは4年前だ。認知症を患い、施設でケアを受けていた。
「おふくろの死は、自分がどう死んでいくかをちゃんと考える機会になりました」
あるときから施設で急に物を食べなくなったという。
「口元に食べ物を持っていくと口をキュッと結ぶんです。もう衰弱しているはずなのに、どこからそんな力が出るんだろうというくらい、歯を食いしばって拒否したそうです。病院でチューブを身体に入れてまで生きるのはいやだ、と言っていた。施設でできる範囲内の点滴で最後まで何も食べずに、病気もせずに亡くなっていったんです」
ある意味、自殺ともとれる最期だった。
「自殺の定義ってなんだろう、人間らしい死ってなんだろう、と考えました。それもあって死とはそんなに大げさなことじゃない、自分が死んだ後のことを考えるなんて馬鹿らしい、と達観したような気持ちになっていたんです」
だが、この作品に出会って少し変化があった。