「実に大変な芝居だったぞ。吾輩は、ヒロインの父親、魔法使い、城に住むネズミの役をやった。この姿で3役だぞ。内容にはいつもの吾輩的なメッセージはない。音楽を作ったわけでもなく、ただただ役者に徹した」

 ところが終演すると、思いもよらぬ感情が生まれた。

「すごく達成感があった。吾輩から生まれた作品ではなく、吾輩流のメッセージもないのにだぞ。エンタテインメントは思い切り楽しければいいと実感した」

 閣下はもう一度閣下としての活動をやろうと思った。このミュージカルを機に曲作りも変わった。

「人を楽しませることに第一義を置くのもいいじゃないか、と思えた。楽曲に説教臭いメッセージを入れることを避けるようになった。問題提起的な楽曲を作っても、リスナーからのリアクションは求めなくなった。これを吾輩は“武装解除”と言った。ただ、この時点で20年くらい説教臭い楽曲を書いてきたわけだから、すぐに完全な武装解除をするなどは難しい。つい説教臭い歌詞を書いてしまって、いけない、いけない、と書き直していたものだ」

 聖飢魔IIやソロと並行し、劇団☆新感線の音楽、主として歌詞も書いた。舞台の曲作りにはいわゆるシバリがある。物語に即した音楽でなくてはいけない。また多くの場合、自分ではなく役者が歌う。歌い手の個性も尊重しなくてはいけない。

「確かに、芝居の音楽はさまざまな条件のもとに作る必要がある。自由度が低いと言ってもいいかもしれないな。しかし、吾輩に関しては、むしろ制限があったからこそ、新しい楽曲が書けたと感じている。10年、20年オリジナルの音楽をやっていると、メロディは浮かんでも、歌詞で言いたいことはほぼ歌いつくしてしまっている。しかし、劇団から物語やテーマを与えられ、自分にはなかったテイストの作品が書けるようになった。しかも脚本には、それまで吾輩が使わなかった台詞があるではないか。芝居とのコラボレーションによって、吾輩の作品作りの可能性は広がった」

次のページ