「少し前なら65歳を超えればもう雇ってくれるところはないと思って、ずっと働きたい人は会社を辞めませんでした。それが今、変わり始めています。一つは人手不足。65歳を超えた人も雇っていかないと、業務がこなせません。それに、給料など、より条件のいいところが見つかれば、すぐ移ろうというシニアも増えています。この一時金も、そういう流れに乗って利用者が増えていくでしょう」

 ただし、利用が広がるにつれ悪知恵を働かせる人が出てくる恐れもある。例えば基本手当でも一時、問題になった、「循環的離職者」という働き方だ。一定期間内に何度も同じ事業所に就職し、失業保険を繰り返してもらおうとする人のことを指す。

「例えば自動車などの期間工のケースがあります。出稼ぎ労働者が毎年半年ずつ工場で働けば、2年で基本手当がもらえてしまうんです。翌年も同じ会社に雇われることが確実なのに、です。高年齢求職者給付金は雇用保険の加入期間が6カ月でもらえてしまうため、そういう利用がより発生しやすくなるともいえます」(先の柳田氏)

 厚生労働省によると、今では同じ事業所に何度も就職すると「警報」が出て、ハローワークが働く側と会社側に事情を問い合わせるシステムができているという。それでも全てチェックすることは現実的ではない。

「いったん辞めて関連会社に再就職したりすると、同じ事業所ではないので捕捉は難しいでしょうね」(同)

 こういう手当でよく見られる、抜け道探しと規制強化のいたちごっこが、今回も起こるのかもしれない。しかし、逆から見れば、こうした過程を経て65歳以上の雇用が一般化していくという見方もできる。

 最後にもう一つ。この給付金は、受給資格を得てから1年以内なら給付金をもらえる。もし皆さんの周りに、昨年夏以降に仕事を辞めた65歳以上のシニアがいれば、ぜひ情報を教えてあげてほしい。仕事探しを続けていれば、この給付金をもらえる可能性がある。

 知らないことによる「損」ほど悔しいことはない。ゆめゆめ情報収集を怠らないことが大切なのだ。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2019年9月6日号

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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