基本手当は加入期間などに応じて一定期間、退職時の賃金などに応じた手当が支給される。例えば会社に20年以上勤めていたのにリストラで退職させられた45~59歳の人なら、所定給付日数は330日になる。

 これに対し高年齢求職者給付金は、一定期間ではなく一時金として受け取る。また、基本手当を受給すると公的年金は支給停止になってしまうが、この給付金は年金と一緒にもらうことができる。

 以前は65歳以上で新たに雇われた人は雇用保険の対象外で、この給付金も65歳前から同じ会社に勤めていた人が65歳を過ぎて辞めた場合に限って1回だけ支給されるものだった。企業の人事出身の社会保険労務士の柳田恵一氏が言う。

「63、64歳で辞めると言いだした従業員に対して、『65歳まで頑張ると出る一時金がある。しかも、年金と一緒にもらえますよ』などと、引き留め策として使っていましたね」

 高齢化が急進展するにつれてシニアの雇用はどんどん増え、働く年齢は上がる一方だ。そこで2年前に改正法が施行され、65歳以上も雇用保険に加入することが義務づけられた。

 今は激変緩和措置で保険料は猶予されているが、来年度からは徴収されるようになる。負担あるところに給付あり。一回こっきりだったこの給付金も、条件を満たせば何回でももらえるようになった。

 労働側から見れば「権利拡大」だが、制度の知名度は低いままのようだ。先の社労士の柳田氏が、

「働く側は制度自体を知らない人がほとんどでしょうね。会社側も中小企業になると2年前の改正さえ知らない企業がけっこうありますよ」

 と言えば、労働問題のコラムをブログで展開している広島の社労士、村上公政氏も、

「ネットで私のコラムを読んだ人が、『保険料を払っていないのに本当にもらえるのか』と問い合わせてくるケースがあります。中には、明らかに会社の人事・総務担当者と思われる人もいますね」

 と話す。

 冒頭のA男さんもこうアドバイスする。

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