西郷隆盛が愛読したという佐藤一斎の「言志四録」のひとつ、「言志晩録」に以下のような言葉があります。以前、小泉純一郎首相(当時)が国会での発言で引用してよく知られるようになりました。

 少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。
 壮にして学べば、則ち老いて衰えず。
 老いて学べば、則ち死して朽ちず。

 つまり、老いてからの学びは死を乗り越えるというのです。老には、少や壮とはくらべものにならない深みがあります。やはり老いることのプラスは、マイナスをはるかに超えています。

 また老いてこそ、しみじみ感じることもありますね。前々回書きましたが、私は死んだら虚空に帰ると思っています。ですから、地球は故郷のようなものなのですが、この地球への思いが深まっているのです。

 最近、地球の自然治癒力が低下しているのではないでしょうか。地震や洪水といった天災だけでなく、世界各地での紛争の多さも目を見張るものがあります。さらに殺人事件の多いこと。しかも子どもが犠牲になっています。近い将来、地球の病は限界に来るのではないかと思ってしまいます。微力ながら回復に力を尽くしたいと思います。

 わが故郷・地球へのいとおしさが募るのも、老いのプラス面かもしれません。

週刊朝日  2019年7月12日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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