三つの下りステップ (週刊朝日2019年7月12日号より)
三つの下りステップ (週刊朝日2019年7月12日号より)
『死ぬまで歩きたい!』
『死ぬまで歩きたい!』

 死ぬまで自分の足で歩けるのは、当たり前ではない。「足が痛い」と思った時、どの病院に行くか。ひざがきしむから整形外科? 巻き爪がひどいから皮膚科? 足首をひねったから、整骨院で相談? こんな時、総合的な足の痛みを相談できるかかりつけの医者がいてくれれば──。

【久道勝也医師の『死ぬまで歩きたい! 人生100年時代と足病医学』はこちら】

 います、足の専門医。その名も「足病医(そくびょうい)」だ。足、すなわちひざから下の全てを一つの臓器ととらえ、「足病医学(Podiatry)」によって足と歩行の悩みを解決する。

「アメリカには約1万5千人の足病医がいます。これは歯医者の数と同じくらい。日本で各自にかかりつけの歯医者がいるのと同じように、足病医はアメリカでは当たり前の存在です」

 そう話すのは、『死ぬまで歩きたい! 人生100年時代と足病医学』(大和書房)の著書がある下北沢病院(東京都世田谷区)理事長の久道勝也医師。日本でまだごくわずかしかいない足病医の一人だ。

「足には皮膚があり、その下に脂肪と軟部組織、さらに筋肉、血管、神経、骨……。日本の医療システムでは、これらをすべて別々の診療科で診ます。足が痛い時は、悪い場所が1カ所じゃなくて複合的な要因によることが多い。足病医はいずれも理解できていなきゃいけません」

 たとえば、足裏にタコができ、皮膚が分厚くなっているとする。そこだけ圧がかかっているわけだが、なぜなのか? 骨が変形しているのか、歩き方がおかしいのか。おかしいとすれば、それはどこかの痛みをかばおうとしているからではないのか──。根本的に治すために、「タコがあるね、じゃあ皮膚を削りましょう」だけでは解決しないことを見抜かなくてはならない。

 久道医師によると、アメリカで足病医療が進んだのは、足病医が陸軍の歩兵の足のけがや異常に対処することで、戦力を回復させていたためだという。では、なぜ日本に足病医が必要なのか。久道医師は二つの理由を説く。

 一つは、歩行を維持することで、“死への下り階段”を進まずに生活できるから。

 先進国において、人は3つの行為を順にできなくなって死へ向かうという。はじめに「歩行」ができなくなり、車いすや寝たきりの生活になる。次が「排泄(はいせつ)」で、自力で排尿・排便が調節できなくなる。最後が「食事」。胃ろうによる摂取を選択する人もいるが、自力で食べられなくなることで死がぐっと近づくとされる。

次のページ