今年2月に開かれた「ひきこもりUX CAMP」。当事者や支援者が参加した=(一社)ひきこもりUX会議提供
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引きこもりの当事者と経験者でつくる「ひきこもり新聞」
引きこもりの当事者と経験者でつくる「ひきこもり新聞」

 20人を殺傷し、自らも命を絶った岩崎隆一容疑者(51)。長期間引きこもりの状態で、川崎市で同居する高齢の伯父、伯母とは会話らしい会話もなかったという。80代の親と50代の引きこもりの子どもの家族が社会から孤立し、困窮する「8050問題」。国は見て見ぬふりをしていた。

【引きこもりの当事者と経験者でつくる「ひきこもり新聞」】

 岩崎容疑者が同居していた80代の伯父と伯母。川崎市は、今年1月までこの2人から相談を受けていた。

「(岩崎容疑者と)口は利かないが、とりあえず食事を出したり、小遣いをあげたりして、愛情と言えるかどうかはわからないが、それなりには気遣っていたんだと思う」

 同市健康福祉局の坂元昇医務監は、本誌の取材にそう答え、続けた。
「ただコミュニケーションはなかったかもしれない。じゃあ本人が暴れたとか、迷惑行為があったかというと、そういうのもなかった。ということは、家庭内で何らかのルールを設けて共存をはかっていたんじゃないかなと察します。引きこもり状態と犯罪との因果関係は推測外です」

 坂元医務監や川崎市の会見によれば、岩崎容疑者は10年単位の長期の引きこもりの状態にあったとみられる。伯父、伯母からは一昨年11月、介護が必要な状況になっていると市に相談があり、昨年5月、訪問介護サービスを導入することが決まった。6月から始めたが、その際、伯父、伯母は岩崎容疑者の将来を心配していた。看護師が訪問した際に、引きこもり状態の岩崎容疑者が不安定になるのではないかと考え、それを市に相談した。

 市は、岩崎容疑者に伯父、伯母から手紙を渡すよう提案。2人が今年1月に手紙を渡すと、数日後、岩崎容疑者からは、「自分のことはちゃんとやっている。食事洗濯買い物も自分でやっているのに、とじこもりとはなんだ」と言われたという。伯父、伯母は、「今こうした安定した状態なので、しばらく様子を見る」と市に伝えた。

 それから数カ月後の凶行。事件の背景に何があったのかは捜査の進展が待たれるところだが、高齢の親と「引きこもり中高年」の対策は急務だ。

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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支援者ら「『新たな社会問題』ではない