内閣府は今年3月、40~64歳の引きこもりの数が推計で61・3万人と発表した。それまでは、引きこもりは少年や若年の問題とされ、39歳までの調査しかしてこなかった。今回の調査で、全国規模の「引きこもり中高年」の数が初めて明らかとなり、「8050問題」が深刻な社会問題であることが示された。

 調査結果を受け、根本匠厚生労働相は会見で、「新たな社会問題」と述べた。

 この発言について、KHJ全国ひきこもり家族会連合会(KHJ)の理事で、20年以上引きこもりを取材してきたジャーナリストの池上正樹さんはこう指摘する。

「『新しい』というのは違う。事実ではない。政府としては『新しく知った、確認した』という思いかもしれないが、家族会や現場を知っている一部の専門家はずっと前から、こういう問題がある、と訴えてきた。しかし、対応できる法律も制度もないことから、見なかったことにされてきた」

 池上さんによると、8050問題は、制度の狭間にあり、引きこもりの当事者と家族は社会から孤立してきたという。引きこもりは障害ではないため、障害者認定は受けられない。65歳未満は公的な支援もない。親が年金受給者だったり、収入や持ち家などの資産があったりした場合は、「引きこもり支援」の法的根拠となる生活困窮者自立支援法(生活保護を受給する手前の人を支援)の「対象外」と見なされるなど、「年齢の壁」にもあたることが多いという。

 こうして、引きこもりの中高年は、置き去りにされてきたというのだ。
「現在はあきらめている家族が圧倒的に多いが、最初からそういうわけではなかった。家族が勇気を出して行政の窓口へ相談に行っても、『親の育て方の問題』『なぜここまで放置したのか』などと説教され、二度と行かなくなる。その結果、悩みを抱えたまま孤立が長期化する。こういうことがたくさん起きている」(池上さん)

 東京近郊の一軒家で90代の母親と2人で暮らしているという50代半ばの引きこもりの女性は、「母は『みんな幸せになったし、あんたに一番幸せになってほしい』と言っているけど、毎日、『どうしたらいいんだろう、どうしたらいいんだろう』と言っている」と打ち明ける。

次のページ
死ぬことを考えると引きこもり女性