冷蔵庫の中で飼育される北村さん家のイワナ=いずれも北村駿介さん提供
冷蔵庫の中で飼育される北村さん家のイワナ=いずれも北村駿介さん提供
冷蔵庫の中で飼育される北村さん家のイワナ
冷蔵庫の中で飼育される北村さん家のイワナ
冷蔵庫の中で飼育される北村さん家のイワナ
冷蔵庫の中で飼育される北村さん家のイワナ

「東京からの来客に天然のイワナを見せたくて」

 そこで思いついたのが、自宅の冷蔵庫下段にある野菜室(透明な引き出しケース)。長野市の北村敬介さん(51)は、それをいけすにして渓流魚のイワナを「飼育」している。

 釣り歴45年。その北村さんが飼育を思い立ったのは5月3日だった。同市戸隠(とがくし)付近の裾花川(すそばながわ)で、3匹のイワナを釣り上げた。

 2匹は帰宅中に弱り、その日のうちに塩焼きとから揚げにして食べた。

だが、1匹は元気だった。友人に見せようと、生かしたまま冷蔵庫へ。見つけた家族に「バカだね」「オヤジ、おもしろい」と言われながら、ミミズや幼虫といった餌をやり続けている。

 空気を送り込むエアポンプは使っていない。ただ、時折、冷たい井戸水をくんで水を入れ替える。少し高い位置から水を落として、空気が入るように工夫している。

 中央水産研究所沿岸・内水面研究センターでイワナの生態に詳しい中村智幸さんも驚く飼育法だ。

「通常、水槽にクーラーのような冷却装置を付け、水を冷やしてイワナを飼うのですが……。冷蔵庫に入れる発想は初めて聞きました」

 イワナは警戒心が強い。人や動物の影を見つけるとすぐに岩の下に隠れてしまい、釣るのが難しい。しかも、人があげた餌を食べない頑固な性格だとか。

「イワナの養殖は難しくて成功させるのに時間がかかった魚でしたから、冷蔵庫で飼えるとは」

 そう話す中村さんは一方で、こう太鼓判も押す。

「イワナにとっては、(冷蔵庫は)水温が低く保たれています。また、暗いところを好みますので、良い環境だと思います」

 冷蔵庫の中は10度。水温が低いと、魚は酸素をそれほど使わない。水の交換だけで適度な酸素を送り込むことができていたのだ。

 ただ、コイやフナに比べて酸素の要求量は多い。もし、釣った3匹を一緒にしていたら酸欠死していた可能性があった。

 息子の駿介さん(20)がSNSに投稿して話題になったイワナ。体長17センチほどで、少し小さめ。冷蔵庫で飼育して2週間経つが、いずれ川に返すつもりでいる。

 北村さんはこう願う。

「まだ小さいから、大きくなったらかえっておいで」(本誌・岩下明日香)

※週刊朝日オンライン限定記事