夏井:私もときどき誰も取ってくれないで、ムッとして帰るときがあります(笑)。でも、俳句はそれがあたりまえのことで、句会ってそういうシステムだから、ムッとはするけど、わりとサバサバしてるんです。「今日はゲンが悪かったな」ぐらいのことで終わって、それが恨みつらみにはならないんです。

林:同じ詩歌系でも、短歌をやる女性は非常に恋愛経験豊富に走る人が多くて、俳句をやる女性はさっぱりしていると言われますよね。私も柳原白蓮(歌人)の伝記(『白蓮れんれん』)を書きましたけど。

夏井:私、あれ大好き!

林:ありがとうございます。短歌って情念ジワジワという感じだけど、俳句をやる人はわりときっぱりさっぱりで、男性関係のグッチャグチャがないような気がします。初対面でもすぐ打ち解けてくださる感じ。

夏井:調べたことはないですけど、イメージとしては、俳句をやってる女の人はサバサバした人が多いですね。短歌の五七五七七の最後の「七七」が鬱陶しいとか(笑)。

林:物書きの俳句はどうですか。

夏井:今までお会いした小説家の方で真っ当にうまいのは、又吉直樹さんと石田衣良さんと長嶋有さんぐらいです。「プレバト!!」に出てきた小説家の皆さんは、自滅型で全部ダメ(笑)。小説家の方は、17音しかないのにストーリーを全部入れようとするから、意味がわからないの。

林:私たちはいつも長いもので勝負してるので、凝縮することが苦手なんだと思うんですよ。

夏井:俳句は実は凝縮じゃなくて、小説の中のほんの半行ぐらいの素材をちょいとつまんで季語と合体させるだけでできちゃうんです。でも、小説家の皆さんは一句の中に凝縮しないといけないと思うから、意味がわからなくなるんです。

林:そう、凝縮しなきゃ、と思っちゃうんです。

夏井:小説の中の小さなリアリティーのかけら、たとえば歴史の世界を書いてるのに、なんでこんなリアルな場面を書けるんだろうと思ってドキッとすることがありますけど、その小さなひとかけらのリアリティーと季語があれば、俳句って成立しちゃうんです。発想のオリジナリティーと言葉のリアリティーがあれば、季語の力で生かしてもらえるので、脳みそをあまり使わないでつくれちゃう。観察するのが好きな人とか、だから理系の人が多いんです。

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