林:へぇ~、そうなんだ。

夏井:水が入ったコップの中に浮いている氷がちょっと動いたとか、そんなことに興味を持って観察できる人は、すごく俳句に向いてるんです。俳句って公式がいっぱいあって、「いま自分はこういうことを言いたいんだけど、この公式が使えるな」と思って言葉を当てはめるんです。理系の人は数学の公式で解くような感覚でストンと入ってこられる。

林:私が昔、俳句のつくり方の本を読んでたら、「いかにも頭でつくったのはダメ」みたいなことが書いてあって、「紅梅や女筆なる貸家札」というのを例にあげて、「紅梅、女筆、貸家札、小道具をそろえすぎる」と酷評されてましたけど、集めすぎるとダメだし、集めないとダメだし、そこがまた難しいなと思って。

夏井:俳人によって評価の軸もかなり違うので、そういうお膳立てがしっかりしたものよりは、何気なくつぶやいたもののほうによりリアリティーがある、という立場で語ってらっしゃるんですよ、その方は。

林:しかし日本ってすごいですね。短歌といい、俳句といい、国民がこんなに詩をつくって披露し合う国って、ちょっとほかにないですよね。

夏井:『万葉集』の時代は防人も歌を詠んでたわけだし、DNAの中にそういうものがあるんだろうなと思いますね。私も日本中の人が短歌なり俳句なりを日常的につくる時代が再生できたらいいなと思います。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年5月24日号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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