例えば、ドイツなどの白ワインで有名なブドウ、リースリングで造った白ワインは独特の油っぽいテルペン類の香りがする。ブラインド・テイスティングのときはこの特徴的な香りを頼りにブドウ品種を当てにいく。


 
 発酵由来の香り(第二アロマ)には酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジアセチル(発酵バターの香り)などがある。樽熟成の香り(第三アロマ、ブーケ)にはラクトン(ココナツの香り)、バニリン(そのまんまバニラの香り)、オイゲノール、グアイアコールなどの香りがある。

 このような複合的な香りの成分の組み合わせがワインの香りを構成している。ワインの香りが恐ろしく複雑で豊かなのも無理はない。

 ワインは空気接触によって、酸化する。酸化により、第一アロマ(果実香など)は上がり、第二アロマ(バナナのような熟成の香り)は下がる。抜栓して自然に空気接触させると飲んでいるうちにだんだんワインの香りが変わってくる。

 また、デカンターを使って意図的にデカンタージュし、空気に触れさせ、酸化を促し、ワインを「開かせる」こともある。もっとも、人間がちゃんと香りを感じ取れているかについては、案外いい加減なのかもしれない。

■人間は嗅覚よりもむしろ視覚に頼っていたりする

 例えば、アントシアニンで色をつけた白ワインの香りをかがせる実験がある。中身は何だと教えられずに被験者が(赤く染めた)白ワインの香りを嗅ぐと、「これは赤ワインの香りだ」と思ってしまうのだそうだ。つまり、われわれは嗅覚よりもむしろ視覚に頼っていたりするのだ(Morrot G et al. Brain Lang. 2001 Nov;79(2):309–20)。人間の知覚は案外いい加減なのだ。

 白状すると、ぼくも昔、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を受験した時、目の前にある透明な液体のにおいがまったく分からず、試験終了ギリギリまで悩まされたことがある。それは「芋焼酎」だった!(笑)。

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コルク臭「ブショネ」