芋焼酎なんてあんだけ強烈で独特なにおいがするんだから、間違えるわけはないと思うだろう。ぼくもそう思っていたし、焼酎くらいは嗅ぎ分けられる自信があったので、テイスティングの練習飲料にも入れていなかった。

 もっとマニアックなリレとかアブサンとかで、テイスティングの練習をしていた(ワイン以外にもいろいろ出題されるのだ)。まったく汗顔の至りだが、こういうシンプルな香りも、ブラインドで出されると案外わからないものだ。 
 
 ワイン造りがうまくいかなかったり、保存に失敗したりすると不快臭がでる。硫化臭、酸化臭、コルク臭などがそうだ。コルク臭のことをブショネともいう。ブショネはコルクがカビに汚染され、その漂白処理で塩素がつくとトリクロロアニソール(TCA)という物質がもたらすにおいだ。ネズミの体臭のような独特のにおいがする。

 ブショネがあると、「君、取り換えてくれるかな」とソムリエに言ってワインを取り換えてもらえる。逆に言えば、健全な保存がされているワインだったら「気に入らない」という理由で取り換えを頼むのはマナー違反だ。注意したい。

 ところで、小原陽子氏によると、実はブショネがあるとされたワインを分析しても実際にTCAが含まれているものはほとんどなかったのだという(日本ソムリエ協会「Sommelier」2017年7月号)。実は、ブショネはTCA以外が原因だったのだろうか? 
 
 今後、研究が進めばこれまでのワイン学の常識が覆るかもしれない。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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