「一番茶になる最初の芽が出るのは4月末から5月上旬の間ですが、太陽光パネルによって気温が上昇すると、それより早く芽が出る可能性があります。時期が早まれば、霜に当たって新芽が黒くなる恐れがある」

 実際、市内の別の茶農家によれば、近くに中規模の太陽光発電施設が建設された後、新芽が霜の被害を受けるようになった。2番目の発芽を待たなければならず、出荷時期が遅れた。このため、売り上げが2割ほど下がったという。

 水害の多発を懸念する住民も少なくない。

「足見川が大雨で氾濫(はんらん)すると、下流域の内部地区はたびたび避難を余儀なくされています。里山の森林が失われ、保水力がなくなれば水害が増えるのではないか。業者は山の斜面の下に調整池を造るから大丈夫だというのですが……」(住民の一人)

 潮目が変わったのは、希少生物の存在だ。

 事業予定地は、各種希少生物の宝庫でもある。タカの一種で絶滅危惧種のサシバや、フクロウなどの鳥類、ホトケドジョウやヒメタイコウチなどの水生生物などが生息している。

 いま焦点となっているのが、16年から3年続けて飛来が確認されているサシバの保護問題だ。「日本野鳥の会三重」の安藤宣朗副代表が解説する。

「サシバは渡り鳥で、3月末から4月上旬に東南アジアから、日本に渡ってきます。飛来数は、80年代ごろは全国で4万~5万羽ありましたが、年々減少して現在は5千~1万羽程度です」

 サシバは、事業予定地のエリアの東端に近いところで営巣。波木町の域内に入るので“波木ペア”と呼ばれている。

「サシバは毎年同じような場所で営巣するので、営巣地の周辺は広い森林が残されなければなりません。業者は事業予定地周辺の代替地や、人工の巣を作ることなどを提案しましたが、残念ながら成功例はほとんどないのです」(安藤さん)

 業者は県の環境影響評価条例に基づき、事業に係る環境アセスメントを行い、県は環境影響評価委員会(小委員会)を開催。学者・専門家らで構成する委員が2度にわたって審議し、意見を出し合った。その結果を受け、18年1月、知事意見が発表された。事業実施区域の面積の約60%を占めるエリアを「改変せずに残すべきである」という厳しい内容だった。

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