『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』から
『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』から
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足利赤十字病院院長の小松本悟医師(本人提供)
足利赤十字病院院長の小松本悟医師(本人提供)

 口腔ケアをすることで誤嚥性肺炎を減らすことができ、病院に入院する患者は早期退院が可能になった。足利赤十字病院では、そんな取り組みが奏功し、病院経営にも効果が出ていると言います。「口から考える認知症」と題して各地でフォーラムを開催するNPO法人ハート・リング運動が講演内容を中心にまとめた書籍『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』では、足利赤十字病院院長の小松本悟医師が、自院の取り組みを報告しています。

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 私ども足利赤十字病院での医科歯科連携の事例を紹介させていただきます。当院は病床数555床の総合病院です。もともと院内に口腔外科はありましたが、2010年10月から口腔外科とは別に、リハビリテーション科内に入院患者さんの摂食嚥下(えんげ)にかかわる目的で歯科部門を設置しました。現在、口腔ケア管理を専任とした歯科医師3人、常勤の歯科衛生士2人がいて、全555人の入院患者さんを対象に、口腔衛生管理や口腔リハビリテーション、嚥下評価、義歯調整などにあたっています。

 入院患者さんにはまず、看護師が口腔アセスメントを行うことにしており、14年以降、その実施率は100%です。すべての入院患者さんに実施しています。看護部と歯科で作成したフローシートに従い、重度汚染や口腔潰瘍(かいよう)、義歯不適合などがある場合は、歯科へ連絡するシステムを作っています。普通の総合病院の場合、診療科から依頼がないと歯科は患者さんを診ないのですが、当院は全23の診療科にこのシステムを徹底しておりますので、依頼がなくてもリハビリ歯科チームが治療を行うことができます。

■実施後は肺炎発症率が約半減、脳卒中の在院日数も短期化

 では、こうした取り組みの結果、医療の質はどう向上したかということですが、脳卒中患者さんの誤嚥(ごえん)性肺炎の発症率を減少させることができました。

 リハビリ歯科チーム導入前の11年は12.2%だった誤嚥性肺炎発症率が、15年には9.5%、16年には6.0%、17年には5.7%まで減りました。そのため、早期に退院できる患者さんが増えたのです。また、当院の患者さんの平均では脳卒中患者の在院日数は約27日ですが、誤嚥性肺炎を起こしてしまうと約57日と、30日も長くなってしまいます。それがリハビリ歯科チームの活躍によって、誤嚥性肺炎が減り、早期に退院できる患者さんが増えるようになりました。そうすると、空いた病床に別の患者さんを入院させることができ、病院経営的にも増収につながり、プラスに働くのです。

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医科歯科の連携