■高価な肉が精神を育むというのは、医学的に怪しい

 日本食(和食)は現在、ユネスコ無形文化遺産に登録されているほど評価が高く、小泉八雲がくさすほどひどいものだとは思わない(栄養価も高いです)。それに、高価な肉が精神を育むというのは、医学的にも栄養学的にも怪しいものだと思う。かつては東京大学で教えていた小泉八雲も、ずいぶんとナイーブな俗説を信じていたものだ。

 いずれにしても、小泉八雲は偉大なる精神には高い栄養価や、ワインが必要だと考えていた。

 小泉八雲を東大から追い出す形になり、その後任となった夏目漱石はアルコールを受け付けない体質だったようだ(関川夏央、谷口ジロー「『坊っちゃん』の時代」による)。しかし、一般的に文学的な知性とアルコール飲料は関係あるように思われがちだ。端的に言えば、文豪は酒飲みというイメージだ。

 ノーベル文学賞を受賞した人たちにも酒好きは多い。有名なところではアーネスト・ヘミングウェーがそうだ。あるいは、ジェームズ・ジョイスも。

 ジョイスはアイルランド人である。そういえば、ラフカディオ・ハーンの父もアイルランド人であった。ぼくは1991年に一度アイルランド共和国と北アイルランドを旅したことがある。そのとき、アイルランド人は黒ビールとアイリッシュウイスキーをこよなく愛する人たちだ、というステレオタイプな印象を受けた。

 たしかにアイルランド人は歴史的にアルコール消費量が多かったらしい。が、近年はアルコール飲料の広告規制など節酒政策が積極的に推し進められ、アイルランドでのアルコール消費量は減少傾向にあるという(Tuesday, March 06, PM 2018-08:39. New figures suggest alcohol consumption in Ireland continues to decline [Internet]. 2018 [cited 2018 Dec 19]. Available from: https://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/new-figures-suggest-alcohol-consumption-in-ireland-continues-to-decline-831208.html)。

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ヘミングウェーの晩年