「物語の中心となる文禄・慶長の役は、緊張が高まる現代の東アジア情勢に重ねられているように思えた。それだけに、歴史的には無名の主人公と仲間たちが、悲惨な戦争を阻止しようと奔走する物語を読むと、小さな個人でも信念を貫けば社会を変えることができると思えるはずだ」(文芸評論家・末國善己さん)

「何度もの配置替えにも負けずしぶとく生きる男の体験を重厚な筆致で描き、戦争の残酷さと権力者の理不尽さがあぶり出されてくる。作者の透徹した歴史観が時代小説だから描ける現代性を浮き彫りにした傑作」(文芸評論家・菊池仁さん)

■2位『童の神』/今村翔吾
【敗者の側から見た時代活劇】

 平安時代、朝廷に属さない先住の民であるため、「童」と呼ばれて貴族社会から蔑まれていた者たちがいた。その一人、越後で生まれた桜暁丸(おうぎまる)は、故郷を追われ、合戦に次ぐ合戦の人生を歩む。ついには鬼とも呼ばれた「童」たちと共に朝廷軍に戦いを挑んでいく。源頼光、坂田金時、安倍晴明ら実在の人物に酒呑童子伝説なども織り交ぜた敗者の側から見た時代物活劇。

「平成の本朝水滸伝ともいうべき力作。時代と社会の中でもがき抗う人間たちの姿が強く印象に残る」(文芸評論家・三田主水さん)

「平安時代は華やかで雅な貴族の世、なんて教科書的な思い込みをぶっ飛ばしてしまう熱い戦いの物語だ」(紀伊國屋書店新宿本店・吉野裕司さん)

■3位『信長の原理』/垣根涼介
【蟻の行列から発見した原理】

 合理的ながら冷徹すぎる戦法で勝ち続ける織田信長には、幼少期から不思議に思うことがあった。どんなに兵団を鍛え上げても、能力を落とす者が必ず出てくる、と。

 ある時、蟻の行列を見かけ、この世を支配する“原理”を発見する。この原理に従い、信長は有用な人間を登用し、無用な人間を容赦なく切り捨てる一方、家臣の中から裏切り者が出てくると予想する。出世競争を生き抜く家臣や武将たちのうち、やがて羽柴秀吉、明智光秀、徳川家康らが残り……。

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