「蟻の法則から導き出される本能寺の変の真相は驚きだが、納得させられた」(「歴史街道」編集長・大山耕介さん)

「蟻の行列=集団を動かす原理は現代社会にも重なる。ただの歴史小説では終わらない独自の視点を交えた力作」(有隣堂センター南駅店・板垣麻子さん)

■4位『雲上雲下』/朝井まかて
【濃密で豊かな「語り」の世界】

 語り手は草丈二丈の「草どん」。春、子狐がお話を草どんにねだることから物語が始まる。山姥、龍宮城の乙姫、亀、鬼、龍などが登場。民話、昔話、お伽話が盛り込まれている。

「ラストでは雲上と雲下の世界をつないでいたのが『物語』であったことが強調され、現代の『物語の喪失』というテーマを浮かび上がらせる。土俗性のある濃密で豊かな『語り』の世界が確としてある」(文芸評論家・清原康正さん)

「語り継がれる物語のもつ魅力、ぬくもり、奥深さ、豊かさ、すべてを感じる作品でした」(旭屋書店池袋店・磯部ゆきえさん)

■5位『火定』/澤田瞳子
【疫病の流行に挑む医師たち】

 奈良時代の平城京で発生した天然痘の大流行。その治療の先頭に立った施薬院の活躍を中心に物語が進む。疫病の蔓延により、権勢を振るった藤原四兄弟が相次いで亡くなり、民衆はパニックに陥る。それに乗じて怪しげな宗教を唱える者たちが現れ、世は騒然となる。そんな中、医師たちは数々の困難に直面しながらも、希望を失わず困難な治療を続ける。

「恐るべき疫病と闘う人々の死と生のドラマ。社会に渦巻く差別や排外の黒々とした感情との対決を人々に迫る物語でもある」(文芸評論家・高橋敏夫さん)

「人々は恐慌状態に陥り、他者を襲う一方、治療に尽力する人もいた。極限状態での、剥き出しの心を描く作品」(正文館書店本店・鶴田真さん)

■6位『無暁の鈴』/西條奈加

真理を求めて流浪する僧侶

 武家の庶子でありながら、家族に疎まれ、寒村の寺に預けられた主人公。寺を飛び出して無暁と名乗り、流浪の身になる。江戸に入ったものの、悪事の末に八丈島へ島流しにされる。そこで改心した無暁は、赦免された後、托鉢をしながら修行を続ける。仏道とは、求道とは、真理とは何かを追い求め、ついには羽黒山で行者になり、即身成仏に惹かれていく。

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