一方で、60歳定年で文科省を辞め、知識や経験を生かした第二の職場に再就職すること自体は、責められるべきことではないと思いますよ。ただ、定年は65歳ぐらいまで引き上げた方がいいと思いますけど。

 現事務次官のこともよく知っています。10月の職員向けの就任挨拶で「議論のプロセスをむやみに外に流さないように」と求めましたね。彼は首相官邸との距離感が近すぎます。「議論のプロセスを外に出さない」というのは、明らかに森友・加計問題の流れを受けての官邸への忖度でしょう。本来、行政プロセスというのは国民に開示されなければいけない。彼が事務次官でいる限り、官邸の顔色をうかがう傾向はますます増すでしょう。最近の霞が関の人事は、官邸にとって都合のいい人ばかりが出世する。省庁全体が官邸の支配下に入ってしまっているとも言えるでしょう。

 僕は、今は日本の司法さえも、すでに不健全だと思う。検察庁も裁判所も信用できません。検察官も裁判官も結局は法務官僚であり、保身や出世も考える。政権に逆らうような判断はしない方が得策だとなってしまう。司法も、官邸に忖度している状況なのです。

 現在の政治の腐敗は、文科省だけでなく国家機構全体を覆っているのです。根本から立て直すには、安倍一強の政治を変えなければいけない。国民は真実を知り、安心してこの国の政治を任せられる人を選び直さなくてはいけない。僕はこれしかないと思います。

週刊朝日  2018年12月21日号

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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