でも日本に帰ったらめまいがしたわよ。1日半の入院でいくらだと思う? 3万ドル。330万円よ。保険でまかなえたけどねえ。

――「もしも」から始まった美川の人生。浮き沈みも経験したが、振り返って悔いはないという。

 暗い時代があって、離れたファンを取り戻さなきゃ、というところが私の人生の本当のスタートだった。ずっと、走ってきました。もし生まれ変わっても、美川憲一に生まれたい。そのくらい「この生き方はよかったな」と思っているんです。

 結婚しようと思った人もいるし、子どもが欲しいと思った時期もありました。でもいまはこれでよかったんだなと思う。だってもしも自分が父親になったら、同時にオネエ言葉を使って、きらびやかな衣装を着てシャンソンは歌えないもの。

 2人の母にも「あんた、私がいなくなったら天涯孤独になるのよ」って心配されたけど、「でも死ぬときは一人だし、意志を持って楽しみながら人生を謳歌すれば、最後まで全うできると思うわよ」と言ったら、母たちは「そう? なら、よかった」って。

 最近まで前の所属事務所とゴタゴタがあったり、いろんなことがありました。でも私はね、決して憎んでないの。「あの人、どうしてるかしら」って、たまに思ったりもするの。人を恨んだりする性格じゃない。それが私のいいところなのよ(笑)。

(聞き手/中村千晶)

週刊朝日  2018年12月14日号