勝俣範之/「抗がん剤治療の目安は実年齢ではない」
勝俣範之/「抗がん剤治療の目安は実年齢ではない」
ステージIVの肺がん患者に対する抗がん剤治療結果(週刊朝日 11月2日号より)
ステージIVの肺がん患者に対する抗がん剤治療結果(週刊朝日 11月2日号より)

 国立がん研究センターがん情報サービスの「がん登録・統計」によると、2014年にがんと診断された患者数のうち、65歳以上は約63万人。全体の約72.6%に上る。

【ステージIVの肺がん患者に対する抗がん剤治療結果はこちら】

 高齢がん患者への治療の在り方が問われる中、昨年4月に同センターが発表した報告が、専門家の間で議論を呼んでいる。

 それは高齢者のがん医療の効果を検証したもので、ステージIVの肺がん患者を抗がん剤治療の有無で生存期間を比較したところ、「75歳未満では明らかに抗がん剤治療ありのほうがいいが、75歳以上ではそれほど大きな差がない」とした。この報告に、腫瘍内科医で日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之さんは、「高齢者差別につながる」と憤る。

「この研究は“後ろ向き研究”という研究者の意図が反映されやすい研究です。被験者数も少なすぎます。“医療費抑制には、高齢者の医療費を削ったほうがいい”という考えに基づいたものにしか見えません」

 高齢者が年齢を理由に抗がん剤治療を受けられない状況は、医療現場で実際に起こっているという。

「『高齢だからやめたほうがいいと言われた』と、セカンドオピニオンに来る患者さんは多い。先日も、ステージIVの肺がんを診断された90歳の患者さんから相談を受けました。少し前まで現役で仕事を続けており、何の合併症もなく、臓器の機能も悪くないのに、年齢だけを理由に治療を断られたのです」(勝俣さん)

 高齢者でも抗がん剤治療が有効とするデータもある。フランスの前向き研究で、70~89歳の肺がん患者のうち、より強い併用抗がん剤治療を受けた群は、単剤の弱い抗がん剤治療を受けた群より生存期間が長かった。日本の前向き研究でも、同じような結果が出ている。

 治療で悩んだ場合、患者や家族は主治医と話し合うのが基本。加えて、かかりつけ医に相談するのも一つの方法だ。新田クリニック院長の新田國夫さんが、高齢患者の抗がん剤治療で考慮するのは副作用だ。

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