林:セリフを覚えたところから、演出家の方とお話ししながら演技を組み立てていくわけですよね。
大竹:ええ。本番に入ってからも、相手役の方と「こうやったほうがもっといいよね」と日々探し求める感じで、それもすごく楽しいですね。芝居には「これで完成」ということはないので、“より良いものを探す旅”という感じです。
林:それは映画とかテレビとはまた違ったものですか。
大竹:はい。映画とかテレビは監督さんのものだから、監督がOKならそれで良しだけど、舞台は幕が開いたら役者が責任をもって一回一回進化させていくものだから。
林:歌はどうですか。今回エディット・ピアフの歌のCDをお出しになりますけど。
大竹:音楽の仲間というのはすごく楽ですね。お芝居だと演出家がいるから、役者同士すごい信頼関係があったり、同じ劇団員だったりしたら「ここ、こうしたらいいんじゃない?」とか言えるけど、ふつうはあんまり言えるものじゃないんです。それが音楽の仲間だと「こんな感じでやりたいんだけど」「オッケー」みたいな感じで、ストレートに言い合えるので気が楽だし、それがまた楽しかったりします。
林:なるほどね。大竹さんは「水色の時」(1975年NHK朝ドラ)でお茶の間に出てきて、どんどん大女優になっていく軌跡を私たちの年代は見てきてるから、舞台で見ると感慨ひとしおというか。ピアフの人生と大竹さんの人生はぜんぜん違うといえども、多くの人が、芸術家の人生ってどこかで重なり合うのかなと思って見てると思うんですよ。
大竹:私は、ぜんぜんピアフとは重ならないですよ。ヤク中でもないし、アル中でもないし(笑)。
林:それはそうだけど、いい歌を歌いたくてあがく感じっていうのは、若干重なるところがあるような気がしますよ。
大竹:必死なところは重なるかもしれません。ピアフの舞台にある「あたしが歌うときはあたしを出すんだ。全部まるごと」というセリフが大好きなんですけど、ステージに立ったら、このあと夜の公演があるからセーブしようとか、そういうことはまったく考えなくて、この一回に全部をかけようと思いますね。