2016年のリオデジャネイロ五輪に出場した宮川紗江選手 (c)朝日新聞社
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2016年のリオデジャネイロ五輪に出場した宮川紗江選手 (c)朝日新聞社

 パワハラ、暴力、組織の無責任体質──騒動の渦に巻き込まれた体操女子の宮川紗江(19)が、選手生命の危機に追い込まれている。その責任は、宮川の周囲にいる速見佑斗コーチ(34)や塚原夫妻はもちろん、適切な対応が取れなかった日本体操協会にもある。

 1カ月前に表面化したこの問題は解決の方向性が見えず、宮川を取り巻く人たちの“クズっぷり”が目立つ。速見コーチは9月5日に会見を開き、宮川に殴る蹴るの暴力を長年振るっていたことを認めた。

「度重なる暴力行為によって、宮川選手はもちろん周りにいた選手などに対して、不快な思いと恐怖を与えてしまったことを深くおわびいたします」

 こう謝罪したが、会見は宮川が行ってから1週間もあと。「暴力しないと誓う」として指導を続けたい意向だが、激しく顔をたたく映像が一部で報じられ、理解は得られにくい。

 コーチの暴力が許されないのは当然だが、問題をややこしくしているのは、パワハラの告発を受けた塚原夫妻の動きだ。宮川の会見直後には塚原光男・日本体操協会副会長は、「なぜ、彼女がうそを言うのかわからない」と反発し、会見するとしていた。だが、世論の風向きが悪いと見るや、一部のメディアだけに登場しつつ、公の場に姿を現さなくなった。塚原千恵子・女子強化本部長も同様だ。

 協会も対応が後手に回っている。宮川が他の選手やコーチらの前で何度も暴力を振るわれていたのに、止められなかった。塚原夫妻のパワハラ問題の調査は、第三者委員会に事実上丸投げする方針で、時間ばかり過ぎていく。協会に大きな影響力を持つ塚原夫妻に、遠慮しているのではないかとの見方もある。

 スポーツ評論家の玉木正之さんは、構造的な問題があるという。

「塚原夫妻によるパワハラの事実関係はともかくとして、協会の組織のあり方が一番悪い。宮川選手が犠牲になりつつあるのに、誰がそれを止めるのか見えてこない。これは体操界だけでなく、日本のスポーツ界全体の問題。それを指摘してこなかったメディアにも責任はあります」

 宮川は会見で、代表合宿や世界選手権(10~11月、カタール・ドーハ)への辞退を発表している。東京五輪を2年後に控え、国際大会を経験できないのは非常に痛い。美容外科「高須クリニック」がスポンサーに名乗りを上げているが、宮川が指導者や練習場所を確保できるのかわからない。

 このままでは、選手生命をかけた「告発の行方」は、不幸な結末に向かってしまう。(本誌・大塚淳史)

週刊朝日  2018年9月21日号