分子標的薬は、がん細胞の異常な性質の原因となるタンパク質を狙い撃つ薬で、従来の抗がん剤のように正常な細胞を傷つけない。虎の門病院肝臓内科の池田健次医師はこう話す。

「最近は肝動脈塞栓術で効果が出なければ、早めに分子標的薬に切り替える傾向があります。それほど、分子標的薬の効果が評価されているのです」

 生存期間を延長することが認められ、肝がんの薬物療法として唯一使用できた分子標的薬は、2009年に承認された「ソラフェニブ(商品名ネクサバール)」だ。

 その後しばらく、新しい薬は登場しなかったが、17年6月にソラフェニブの二次治療としてレゴラフェニブ(商品名スチバーガ)が承認された。対象となるのは、ソラフェニブの効果が認められなかった人で、副作用が強く出てソラフェニブが使用できなかった人は使えない。レゴラフェニブも同様の副作用があるためだ。

 ソラフェニブ、レゴラフェニブの副作用で最も頻度が高く、約50%の人に出現するのが手足症候群だ。手のひらや足の裏にヒリヒリ、またはチクチクした違和感が起こったり、赤く腫れたり、水疱やひび割れができたりする。症状が軽いうちに保湿剤を使用するなどの対処をすれば、治療を継続できることもある。厚めの靴下をはく、手袋をはめるなどの予防も有効だ。そのほか、発疹、脱毛、下痢といった副作用が出ることもある。

 こうした副作用が強く出て治療が継続できない人は、ほかに打つ手がなかった。しかし18年3月に一次治療に使える薬として新たにレンバチニブ(商品名レンビマ)が承認された。ソラフェニブとの比較試験では生存期間の延長効果はほぼ同程度で、腫瘍を縮小する効果は、ソラフェニブが12・4%なのに対して、レンバチニブは40・6%だった。武蔵野赤十字病院院長の泉並木医師はこう話す。

「レンバチニブの使用を開始してから1~2カ月後に造影CT検査をすると、明らかに腫瘍が小さくなっていることがよくあります。効果の判定をしやすいことから使いやすく、最近は第一選択として使用されることが多いようです」

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さらなる効果が期待されている阻害薬とは