■地方球場はスピードガン片手に
アンジャッシュ 渡部 建

 高校野球にハマるようになったのは2009年から。母校(日野・東京)の先輩の忌野清志郎さんが亡くなられて、代表曲の「雨あがりの夜空に」を野球部が応援歌に使って大躍進っていうニュースを見たんです。僕らの時代は弱かったので、都立らしいこぢんまりした野球をやっているんだろうなと思ってたんですよ。神宮第二球場で試合するのを知って見に行ったら、守備は度外視でバットを振りまくるみたいな野球をやってたんです。その後、日大三に負けたんですが、生で見るのっておもしろいな、と。

 日大三が出場する関東大会を見に行ったら、東海大相模にすごい投手がいて。じゃあ翌春も見てみようかみたいに、数珠つなぎにハマっていきましたね。高校野球はどんどん新しいスターが出てくるので、もうどっぷりとつかっています。

 高校野球で一番楽しいのは、選手の伸び率を見ることですね。最初に見たときと、半年後、1年後に見たときでここが変わったなと発見するのが楽しみ。高校生の成長具合に興奮します。それが高じて、スピードガンも買ったんですよ。地方球場は球速が表示されないので、自分で測るためにね。秋に球速138キロだった投手が、一冬越えて春に140キロになる瞬間を見たんです。「あ、冬にだいぶ足腰をいじめ抜いたな」と。だから観戦場所は必ずバックネット裏です。

 他にも胸板が分厚くなったなとか、お尻が大きくなってきたなとか、体のサイズの変化を見るのも好きですね。桐光学園(神奈川)の松井裕樹投手(楽天)は2年生のときにあれだけ成績を残して燃え尽きてしまうのかと思っていたら、3年の春に見たときに体がとんでもないことになってたんですよ。高校生は少し見ない間に見違えるくらい変わりますからね。その変化にゾクゾクします。

 試合でいえば、ベンチワークにも注目です。だいたい背番号13、14の内野手の控えが一番声を出していてチームの元気印なんですけど、緊迫した場面で監督がスクイズとかエンドランとか大事なサインを出すと、意外とおとなしくなるんですよ(笑)。ムードメーカーから声が出なくなって神妙な顔をしだしたら、「あ、なんかあるな」と。そういうところを見るのもおもしろいですよね。

 これまでに印象に残る試合は、清宮幸太郎選手(早稲田実・日本ハム)が1年の夏。15年の西東京大会決勝です。早稲田実が0対5から1イニングに8点取って東海大菅生を逆転した試合、あれは異常でしたね。観客は満員で、狂喜乱舞。昭和のプロ野球日本シリーズのようでした。「紺碧の空」(早稲田実の応援歌)がずっと流れ、東海大菅生の投手がボール球を1球投げるだけで、地鳴りのように「うおぉぉお」と歓声が上がるんです。地方大会で神宮球場が満員になることもないし、あの臨場感を味わえることはなかなかないですね。

(構成/本誌・緒方麦、秦正理)

※週刊朝日 2018年8月3日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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