毎年、年間通して高校野球を取材していますが、今ではライフワークになっていますね。「水と空気と高校野球」というくらいに体の一部になってしまっていて、それがないと生きていけない、私にとって必要な三大栄養素のひとつです。

 私はグラウンドのプレーもですが、ベンチの雰囲気や選手の表情も気になります。凡退してベンチに戻ってきても、みんなが拍手して「ナイスプレー!」って声をかけていたり、たとえば、花巻東(岩手)なら送りバント後に戻ってきた選手を全員がハイタッチで迎えたり。仲間の全力プレーにベンチも全力で応える。そんな光景にグッときます。

 やっぱり初めての甲子園取材となった80回記念大会には思い入れがあって、当時の選手たちとは今も連絡を取り合っています。「子供が野球を始めました!僕は監督をやっています」ってLINEで写真を送ってくれたり「子供が生まれたよ~三奈おばあちゃん見に来て」なんて。

 他にも思い出深い試合はたくさんあります。一つ挙げるとしたら、甲子園ではなくて、真っ先に地方大会が浮かびます。中でも長野の東部(現東御清翔)は思い出に残っています。2002年、3年生3人と2年生2人の5人でスタートした新チーム。広いグラウンドで聞こえるのはボールの音だけ。掛け声も静かです。4月の入学式ではキャプテンが新入生を勧誘して5人の1年生が入り部員が10人に増えました。東部の目標は「公式戦で1点を取る」そして「9回まで試合をする」こと。その年の夏、5回コールドで負けてしまったんですが、スクイズで公式戦で初めて1点を取りました。試合後、3人の3年生が泣きながら1年生たちに頭を下げていました。「最後の夏、僕たちを試合に出させてくれてありがとう」「野球を『楽しみたい』から初めて『勝ちたい』と思わせてくれてありがとう」。野球ができる喜び、仲間への感謝がそこにはあふれていて、高校野球の原点をあらためて彼らが教えてくれました。甲子園には出られなくても、全国には同じような光景がたくさんあふれていることに胸が熱くなります。

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アンジャッシュ・渡部が甲子園にハマった理由