臨床研修終了後の進路には、主に「大学院生」「専修科生」「勤務医」という三つの道があります。

 一つめの道である大学院には試験を受けて入学します。研究と臨床をしながら4年間の課程で研究論文を完成させ、博士の学位を取得します。その後、有給スタッフとして大学に残る人もいますが、職員の枠には限りがあるため、希望する全ての人が残れるわけではありません。大学での有給スタッフは、「レジデント」と呼ばれる医員と教員で、助教、講師、准教授、教授という順に昇格します。

 二つめの道である専修科生とは、知識や技術を学ぶために授業料を払って大学に残る道で、費用を払えば何年でも在籍できます。同じ大学に残る道でも、大学院生や医員・教員のように、研究や教育はする必要がなく、臨床のみを学び、経験を積むことができます。

 三つめの道である勤務医になるには、就職活動をして求人募集を出している歯科医院や歯科のある病院を探します。勤務医は、給料をもらいながら先輩の歯科医師のもとで修業し、技術をみがくことができるため、近年では増加傾向にあるといわれています。

 どの進路を選んでも、多くの人は、技術をみがき、いずれ自信がついたところで独立開業します。しかし、近年の傾向として「なかなか開業に踏み切れない人も多い」と、石井歯科医師は言います。「日本の歯科医療のレベルは世界的に見ても高いといわれています。多くの歯科医師は、大学で歯科治療に必要な知識を基礎からしっかり学び、歯科医師になってからも勉強と経験を積み、自己研鑽を重ねていきます。ところが、近年では臨床の腕をみがく期間が長くなっていて、歯科医師の『開業遅れ』が指摘されています」

 その原因は、技術不足によるトラブルを恐れる傾向や、一つの専門領域だけでは経営的に厳しいため、ほかの領域の治療技術を身につけなければならない事情などが考えられます。

 一方で、インプラントや審美歯科、矯正歯科など、自由診療で高い報酬が見込める分野に、技術が未熟なまま参入する歯科医師も少なくない実情があります。いずれの問題も、歯科医師の数が過剰なことや、とくに都市部などで歯科医院の生き残り競争が激化していることなどが要因と考えられます。

■歯科医の実力を外から判断するのは困難

 歯科医師の技術力を外見や看板から判断することは難しく、どのような技術や知識を持った歯科医師がどこにいるのかを一般の患者が正しく知るすべは、今のところ少ないと思われます。例えば、米国で歯科医師になるためには、大学卒業後に4年制のデンタルスクール(歯学部)を修了する必要があり、歯科医師免許試験では、実際の患者を治療する実技試験もあります。しかし、日本では、歯科医師国家試験に実技試験はなく、歯科医師の技術力を維持するための公的な制度もありません。

 このような歯科医師をとりまく状況を理解した上で、歯医者を選ぶことが求められます。

◯取材協力
東京歯科大学社会歯科学講座教授
石井拓男歯科医師

(文・出村真理子)
 
※週刊朝日MOOK「いい歯医者2017」より