今回注目するロボット手術は、腹腔鏡手術の一種だ。執刀医は、患者のからだと向き合うのではなく、離れたモニターの前に座り、拡大された3次元画像を見ながら操作レバーによりメスや鉗子を動かす。その動きに合わせ、患者のおなかに差し込まれた複数のアームが動き手術をする。手術に関わる医師たちは、映し出された手術部位の拡大画像をモニターで確認しながら手術補助ができる。

「直線的な動きしかできない腹腔鏡手術の器具とは異なり、手術器具を装着したロボット手術のアームは、多関節で人間の手では再現できない角度の動きができ、手ぶれもしません。可動域の縮尺を変えることもでき、深部でも正確に手術器具を動かすことができます」

 そうメリットを語るのは、東京医科歯科大学病院大腸・肛門外科教授の絹笠祐介医師だ。絹笠医師は前任地の県立静岡がんセンターで約630例のロボット手術を経験したパイオニアだ。

 直腸のような骨盤内の狭い空間にさまざまな臓器があり、神経や血管がびっしりと走る部位でおこなう手術では、ロボット手術がその能力を発揮する。がんを取り残さず、合併症を防ぐためには有効な治療法だ。

 絹笠医師は、県立静岡がんセンター在籍時に従来の開腹手術や腹腔鏡手術と、ロボット手術の成績を比較したデータを示している。これによると、ロボット手術で排尿障害、性機能障害は8.1%から2.8%、局所再発は4%から1%へと減り、開腹手術への移行例は3.3%から0%に改善した。そして前の病院で人工肛門になると言われた7~8割の患者で肛門温存ができたという。

 ただし、絹笠医師は、ロボット手術を操作する難しさについて指摘する。

「触覚がないこと、手術器具をおなかに入れるアームが大きく、アーム同士が干渉し合って、見えない部分で臓器を傷つけてしまう恐れがあります。操作を誤ると、他臓器や神経を傷つけたり、がんを取り残したりしてしまう危険性があります。執刀医が経験を積んで慣れてくれば、根治性と安全性、機能温存を実現できる手術になるのです」

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