「若干の不安があったことはあった」と演技後に告白したものの、その不安をねじ伏せた集中力と意志の力というのは、常人の神経では考えられない強さである。

 その翌日のフリーでは、体力が持つのだろうか。そんな周囲の懸念の声を吹っ飛ばし、「SEIMEI」で3本の4回転を完璧に決め、最後まで質の高い演技を滑り切った。羽生に限っては、ギリギリのところに追い詰められたときにどれほどの力を出してくるか最後までわからない。そうは思っていたものの、ここまでの演技を見せると誰が予想しただろう。まるでドラマのような展開で、劇的にオリンピック連覇を果たしたのだ。

 羽生は、4回転ジャンプの練習を再開したのは江陵に入るわずか2週間から2週間半前であったことを告白している。それでもオリンピックという大舞台で、日本中の期待とプレッシャーを背負いながら完璧な演技を見せるということをやってのけた。まさに規格外れの、スーパーヒューマンである。

週刊朝日 2018年3月2日号